社会

世界レベル目指し大塚製薬とタッグ スポーツ振興センター、28年ロス五輪まで

右から佐藤真至、木下まどか、大山加奈、芦立訓、久木留毅の各氏

 国立競技場や東京都北区にあるナショナルトレーニングセンターを運営している独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC、芦立訓理事長)と大塚ホールディングス(樋口達夫社長)は、世界のトップを目指す競技力向上(ハイパフォーマンス)のためのコンディショニング研究と、その成果を国民の健全な生活(ライフパフォーマンス)の向上のために還元する共同プロジェクト「TCRP NEXT」をスタートさせたと7月31日、発表した。具体的にはJSCのハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)と大塚製薬が担当する。契約期間は、ロサンゼルス五輪が開かれる2028年までの5年間。

 ▽東京五輪で培った暑さ対策

 TCRPは「Total Conditioning Research Project」の略。HPSCは2016年12月から、東京2020五輪を見据え、身体、精神、栄養、練習、衛生など、多方面でのコンディション調整について研究、指導を重ねてきた。それらの成果をまとめた「トータルコンディショニングのガイドライン ハイパフォーマンス発揮のためのセルフコンディショニング」(税込み9900円)を7月31日付で発刊。選手のみならず、指導者、スタッフ、体育系教員、学生なども読者対象にしている。
東京2020が猛暑を想定していたこともあり、脱水予防のページもかなり割かれている。

 体重、尿の状態、爪の色などで健康状態を把握する方法や、運動の前後の水の摂取方法などが紹介されている。「喉の渇きを感じてからでは遅い、自由飲水では足りない、飲み過ぎに注意」といった水分補給の具体的なポイントについてもまとめられている。HPSCの久木留毅センター長は「暑さ対策やけがの予防、トレーニングの進め方など、トップクラスだけでなく、学校の体育授業、一般の人の運動などにも参考になる」と説明した。

 ▽知識をフル活用して心と体の健康を

 ゲストで出席したバレーボールの元女子日本代表の大山加奈さんはアスリートの視点から「アテネ五輪(2004年)に出場したころは、フィジカルだけが意識されて、練習量の加減だけの問題だった。今、大切なのは心と体の健康の両方。選手たちは、コンディショニングの知識をフルに活用してほしい」と、後輩たちに訴えた。日本パラリンピック委員会の木下まどか副強化本部長(テコンドー)も、東大で体育教員を務めた経験から「運動会などで、張り切った父母がけがをすることがよくある。コンディショニングの知識が一般社会にも広がっていくことが大事」と話した。

 ▽共同研究でブランドイメージアップ

 産学協働の取り組みによって、大塚製薬は共同プロジェクトで得た知見を新製品の開発、サービスの質的向上などに反映させることができる。HPSCは東京2020までの成果を、さらに積み上げるために支援と研究の推進が期待できる。大塚製薬の佐藤真至常務執行役員は、支援金額については明らかにしなかったものの「このプロジェクトで日本選手のパフォーマンス向上にぜひ貢献したい。研究機関との連携はブランドイメージの向上につながる。積み重ねた知見を一般に普遍化できればと考えている」と、共同歩調のメリットを挙げた。

 最近、国連のグテーレス事務総長が地球沸騰化の時代に入ったと警告したように、猛暑対策は世界的な関心事だ。JSCの芦立理事長は「東京2020でのわれわれの知見を生かせば、暑さ対策は子どもから社会人、高齢者まで適応できる。今後は大塚製薬が持つスポーツドリンクの豊富な知識と経験をわれわれの知見とつなぎ、その成果を国の内外に還元したい」と話した。同時に、米大リーグ、大谷翔平(エンゼルス)の活躍で、コンディショニングの大切さが一般の人にまで意識されてきていることに「大谷選手の活躍は、合理的なトレーニングがけがの予防につながることを証明しているのではないか」と称賛を交え分析した。