顧客からの暴言や不当な要求など、昨今あちこちで話題になるカスタマーハラスメント。その内容を見聞きするたびに、“お客様は神様”でやってきた日本の丁寧な応対の裏面で、行き過ぎる過酷な実態を見る思いだが、それにしても、カスハラの行為者側も何やら生きることに相当不満を抱えている悲しい人生なのか、かなり暇なのか、と想像せざるを得ない内容が並ぶ。
職場のハラスメントの予防などに詳しい、クレア人財育英協会(東京)に寄せられた相談の中には、カフェのアルバイト女性に「笑顔が雑」「お辞儀が浅い」などといちいち指摘、これをSNSに投稿するなどというハラスメントもあった。
同協会が4月1日〜5月31日に、10〜70代の接客・サービス業従事者などからの100件の回答をまとめ、中でも衝撃的な事例を公開したもの。例えばある地方都市の書店では、高齢男性が「レジはあの女の子じゃなきゃダメ」と毎回主張。対象の女性スタッフが休みだと知ると「何のために来たと思ってんだ!」と怒鳴り、ほかのスタッフを罵倒。女性スタッフは次第に出勤を避けるようになったという。
また、コンビニ勤務の男性スタッフに対して、男性客が「態度がムカついた」と言いがかりをつけ、後日再来店した時に「その顔、前と同じで気に入らない」とレジを蹴って暴言を吐くという事案も。「そういう顔してるやつは接客やめろ」と他の客の前でもさらし続け、店側はやむを得ずそのスタッフをバックヤードへ配置転換したのだそうだ。
「今日、笑顔が雑。やる気あるの?」と指摘した上記のカフェの常連客は、毎回スタッフの感情の質をチェック、日ごとに「声が小さい」「お辞儀が浅い」と細かく指摘し、“感情演技”の点数をつけてSNSに投稿していたとか。
ハラスメントは「会社の外」にも追ってくる。某家電量販店では、接客後、名刺を渡したスタッフに対し、後日LINEで「態度が悪かった。謝罪して」と私的連絡。断っても執拗にメッセージが届き「誠意を見せるならプライベートでも対応しろ」と要求。企業が公式にブロックしても、別アカウントで再接続を試みられたという。
アパレルショップでは、スタッフの30代女性に対し、年配女性の客が「結婚してるの?」「子どもいないの?何してるの?」としつこく質問。何気なく回答を避けると「女として終わってるわね」と暴言を吐き、他の客の前で「こんな人が服売ってるなんて」と大声で中傷。スタッフは職場復帰できなくなったようだ。
同協会によると近年のカスハラは、暴言・土下座要求といった露骨な威圧だけでなく、「親しみを装った支配」「感情の採点」「SNSでのさらし」など、見えづらく、断りづらい「新型ハラスメント」へと進化。被害者は「自分が気にしすぎかも」と違和感を抱え込み、結果としてメンタル不調・離職に至るケースもある。だからこそ、社会全体で「カスハラの定義」と「拒否する権利」の再設計が求められているとしている。