女性を中心に人気を集めるブランド「ケイト・スペード」や、Z世代をはじめ幅広い層に支持されている「コーチ」などを傘下に持つ、タペストリー・ジャパン合同会社(東京)。米国に本拠を置く大手ファッション・ライフスタイル企業、タペストリーの日本法人だ。
同社はEVP(従業員の価値の提案)として、「多様性が輝きを生む」を掲げている。社員たちの働きやすさ、働きがいを追求し、さまざまな取り組みを展開する。充実した社内研修制度をベースとして、社員一人一人の働き方のニーズや成長意欲を最大限にサポートするフレキシビリティーを大切にする、という企業風土が根付いているようだ。
たとえば、商品を直接、消費者に売る「ストア」の現場から、広報・PR部門、マーケティングなどがある「オフィス」への人事異動などは、社内公募制度によっても実現できる。大切なのは、本人が「その仕事がしたい」、という熱い情熱だという。
そんな会社で働く4人の社員が集まり、入社以来のキャリアを振り返りつつ、「多様性が輝きを生む」という実践例を語った。
■自己紹介
・Miyuzu(ミユズ)
現職:ケイト・スペード PR
経歴:2015年入社し、大阪と東京のストアで3年間勤務。 その後、社内公募を経てライセンスチームへ異動。2020年から現職。
・Kana(カナ)
現職:ケイト・スペード マーチャンダイジング
経歴:2014年入社。当時の旗艦店である青山店に配属。
その後、社内公募を経てライセンスチームへ異動。2018年から現職。
・Yuichi(ユウイチ)
現職:コーチ リーテイル・トレーニング&ディベロップメント
経歴:2010年入社。御殿場ストアに配属後、店長まで経験。
その後、社内公募を経てリーテイル・トレーニング&ディベロップメントへ異動。2022年から現職。
・Ran(ラン)
現職:タペストリー・ジャパン コミュニケーションズ
経歴:約15年間の自動車メーカー勤務後、外資系たばこ会社で約3年間勤務(どちらも企業広報担当)。2020年に入社。広報のミッションとして、企業のパーパス(存在価値)やバリュー(価値観)、企業カルチャーや社員の働き方を社会に発信し、タペストリーとしての認知向上を目指す。
▼「チャンスはつかみな」
——どのような点で、会社の働きやすさを感じていますか。
Miyuzu 私は大阪・心斎橋の路面店で勤務後、希望していた、東京・新宿にある伊勢丹百貨店の勤務になりました。入社当時からPR担当になるのが夢でしたので、社内公募が来るタイミングを待ちながらも実際の売り場でさまざまな経験を積み、レベルアップしておきたいと考えていました。伊勢丹の後、池袋西武百貨店の副店長としても働きました。その後、ライセンスチームの社内公募を見て、オフィスでの仕事に挑戦したいことを、当時の上司に話したところ、「目標だったことなんだからチャンスをつかみにいっておいで」と背中を押してもらえました。
ライセンスチームの所属になって一生懸命働きながらも、「将来的にはPR担当になりたい」と、ずっと上司やオフィスの同僚に伝えていたこともあって、現在のPR担当に異動となりました。目標としていることを、上司や同僚らが全力でサポート、そして挑戦させてくれる機会を与えてくれる会社に感謝しています。
Kana 私はもともとバイヤー希望で、入社後すぐは、当時の旗艦店である東京・青山店で働いていましたが、ライセンスチームの社内公募が上がったときに思い切ってチャレンジし受かることができました。その後、私がバイヤーをやりたいという気持ちを社内の多くの人が知ってくださっていたという背景もあって、バイイング業務を主とする今のマーチャンダイジングというポジションへの異動がかないました。
将来やりたいことを相談することって本当に大事なことだし、それをきちんと一緒に考えてくれる会社の態勢が整っていると実感しました。公募に応募した当時はオフィスワークに求められる知識はゼロに近い状態でしたが、熱意は誰にも負けない気持ちでした。社員の熱意を重視し、尊重してくれるのは、この会社の本当にいいところだなと他の人の話を聞いていても日々実感しています。
実際、これまで、自分の異動希望を明らかにした際、上司からネガティブなことを言われたことはありません。社内公募の相談を上司にした時も、「チャンスはつかみな」と、応援してくれました。
Yuichi 私は最初、御殿場ストア配属で目まぐるしい毎日を過ごしていましたが、働く中で、チームワークの良さを実感し、何かを一緒に成し遂げることの素晴らしさに気づきました。そしてストアでのトレーニングを通じて、成長する社員が輝く姿を見るのがなによりも自分の中でやりがいに感じていました。その後いくつかのストアで店長を経験後、ストアのトレーニングを担う今のチームの社内公募を受け、異動しました。
毎週お店に出向くのですが、そこで、ストアスタッフからお客さまとのコミュニケーションの仕方などいろいろな質問を受けます。そこで私がかかわって、後日、そのお店に行った時「この前のYuichiさんの話がこういう風に活かせました」とか、「上司にやりたいことを話したときにすごく上司が応援してくれました」という声を聞くと、この仕事って楽しいな、とすごく感じます。
——接客の時のコツをストアスタッフに伝えるとき、心掛けていることはありますか。
Yuichi 傾聴というのはすごく意識していて、お客さまって100人いれば100人の考え方があると思うので、そこに対して私たちがいかに寄り添えるかとか、私たちがいかに親身になって聴いてお客さまにご提案するかっていうところが一番大事だ、と話しています。
私から全部教えるのは簡単なんですけど、ストアスタッフたちがどうしたいのか、お客さまに何をしてあげたいのかを聴き出すようにしています。
あとは、店員とお客さまとの会話の中に、何かしらの『ヒント』って絶対にあると思います。ストアスタッフたちにはお客さまとの会話を振り返ってもらい、「あのときもっと何ができたか」「他のお客さまにどう応用したらいいか」などを常に話し合っています。そういう話ができるのがすごく楽しいなと感じます。みんな表情がキラキラしているので、私も勇気や元気を日々もらっています。
▼多様な仲間と生み出すアイデア
Ran 私は幼少期から好きだった自動車業界に入り、企業広報担当として約15年間従事していました。ただ、「ふと、このままでいいのだろうか」と思い、どうせなら一から勉強できる、今まで全く関わりのなかった業界に飛び込もうと、外資系たばこ会社で約3年間、同じく企業広報を担当しました。自動車よりも身近なライフスタイル商品に携わる中で、幼少期、母がウインドーショッピングや洋服などを買ったときに、ウキウキと本当にうれしそうな顔をしていたことを思い出し、いつか人を笑顔にできるファッション業界に入ってみたい、という思いが強くなっていました。
そんな中、タペストリー・ジャパンから声をかけてもらい、すぐに飛びつきました。ファッションにまったく関わりのなかった人に、新しく立ち上げる企業広報という重要なポジションを担ってほしい、と声をかけていただけたのは、とても懐の深い会社だなと思います。
コーチもケイト・スペードも、それぞれアイコニックなブランドとしての「パーパス」(存在意義)があります。コーチは「リアルに生きる勇気(Courage to be Real)」。ケイト・スペードは「喜びが人生を彩る(Joy Colors Life)」。どちらにも共通しているのが、多様性を尊重して、受け入れるという精神です。
多様な仲間といろんなアイデアが掛け合わされることで、創造的なアイデア、イノベーションが生まれる。そんな価値観を胸に、全社員が同じ方向で動いています。
——働く中で多様性を具体的に感じる点はなんですか。
Miyuzu 上司や同僚らとコミュニケーションをしても、「否定」から入らないところです。これは日常業務でも、ミーティングをしながらでも感じますね。会議に参加した一人一人が、意見を膨らまして、みんなで前に進んでいこうというか、相手の意見を否定せず、みんなのいい色をたくさん掛け合わせて、最終的な「色」にしていくっていうところはケイト・スペードらしいなって日々の業務の中で感じます。
Ran 目とか行動で見える尊重ってみんなできると思いますが、インクルージョンとかダイバーシティーのテーマでよく出てくる「無意識の偏見」、無意識に相手を否定し、発言しにくくさせてしまうようなことのないように、組織を横断してそういう観点でのトレーニングも実施しています。
——「アンコンシャス・バイアス」ですね。定期的に研修をやっていますか。
Yuichi 1年を通じ、座学の講義だけではなく、ロールプレイもやっています。あとは社員同士でディスカッションをおこない、自分たちの中に潜む「無意識の偏見」に向き合い、とらわれないように取り組んでいます。
Ran 仲間同士でお互い声を掛け合えるカルチャーづくりを大切にし、自分にされたくない事は相手にしないっていうのがちゃんと根付いていると思います。
Kana 例えば金曜日は「ハッピーフライデー」(オフィス社員対象の、午後はなるべく会議を入れない日)なんですが、「金曜日はライブがあるので、ちょっとフレックスします」と言っても、「いってらっしゃい!」という感じで、オンもオフも尊重してくれる感じですね。そういう空気感が常に仕事の面でも自分の意見をフラットに言える空間をつくっていて、みんな臆せずに、先入観なしに、自分の意見を伝えられて、それを聞く環境も整えられていると感じます。
Ran 会社全体で、1人の人間としての存在価値をお互いに理解し、受け入れていて、もしかすると、他と比べて、いい意味で従業員同士の距離感が近いのかもしれない。プライベート時間を含めてお互いの価値観を尊重し、違いをしっかりと認め、理解しているからこそ、相手を否定するようなことがないのだと思います。
Yuichi 私は今日の座談会で、MiyuzuさんとKanaさんと初めてお会いしたのですが、まったく初対面という感覚がなく、同じ空気感のなかで話せてしまっているこの環境もそうだなっていうのをすごく思いますね。
▼価値の交差点
——社内のトレーニング制度は、どんなプログラムがありますか。
Yuichi 例えばコーチでは、私たちがパーパスとして掲げる「リアルに生きる勇気」の中に、「自分らしくを一緒に」という価値観があります。ストアで働きながら、自分たちがよりやりがいを見いだせるもの、例えば販売サービス、商品陳列、レザー職人の技術などを極める資格もあります。資格取得を通じて、いろいろなビジョンを描ける制度が豊富にあります。
Miyuzu 今年、英会話のレッスンを週5日・1年間、会社から受けさせてもらえることになりました。今後もこの会社でステップアップしていきたいと思っている中、英語の高いスキルは必ず必要になるので、そこを会社がサポートしてくれるのは心強いですし、仕事に対するモチベーションも上がります。やりがいも持てるので楽しんで仕事ができるほか、将来のことを考えたらもっとわくわくします。そのように会社が環境を整えてくれることはありがたいです。
Kana トレーニング制度が本当に充実しています。パソコン初心者のためにもマイクロソフトの研修が用意されているほか、プレゼンテーションのトレーニングでは話し方やスライドの作り方、また海外のチームに対してのプレゼン方法など、どのチームにいても役に立つようなトレーニングプログラムがそろっています。個人の成長の機会にもつながりますし、その機会を生かさない手はないですね。
Miyuzu マインドのトレーニングも準備されており、それも自由に受けさせてもらえます。私も受けたことがあるのは、EQ(心の知能指数 )トレーニングや、アンガーマネージメント(怒りの管理方法)です。受講後、自分の考え方が整理され、気持ちやモノの見方を変えるだけで、生きやすくなると感じました。プライベートにも仕事にも生かせることだと思うので、受講することで、ライフワークバランスを保つことにもつながります。
Ran タペストリー・ジャパンは、いろんな機会をできる限り広い対象範囲で用意しており、基本的にどのチームの誰でも手に取ることができます。言い換えれば、自分の価値に合ったものをつかみ取りに行きなさい、という職場の環境ができていると思います。働く人をほったらかしにしないで、その人の夢を実現できるようにサポートしてくれる場所があります。
自分の価値や、やりたいことと、会社が提供できる価値が交わるところを見つけるっていうことがすごく大事だと思います。私自身も、自分の価値を交差させてくれるこの会社がとても好きですね。
▼終わりに
会社の経営陣が、一人一人の「多様性が輝きを生む」という哲学を語り、そこで働く人たちに、価値を提示し、その価値の実現を約束する。約束は、言葉だけではない。企業が手間暇をかけて、従業員一人一人の働きがいや、成長のために、さまざまな仕組みを組織内に実装させる。
そんな環境が働く人たちの「他者への基本的な信頼感」を醸成する。ただ、多様性を認めるということを、実践するのは容易ではない。自分がリスペクトしてもらいたいなら、まずは自分が相手をリスペクトするところからしか始まらないからだ。
人間関係の信頼感を土台にし、一人一人が成長を実感する。そこを起点に、結果として生産性が上がったり、これまでにないクリエーティブなものができたりしている。そんな成功例がここにあると感じた。
(構成・編集 株式会社共同通信社 編集制作部)
タペストリー・ジャパン採用ページ:https://japan.tapestry.com/recruit/
コーチ:https://japan.coach.com/
ケイト・スペード:https://www.katespade.jp/