フィリピン・ドリーム

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フィリピン名物サン・ミゲルビール。スーパーでは90円、お店では200円程度から飲むことができる(筆者撮影)

 フィリピン経済を語る上で欠かせないのが、この国の財閥の存在である。当地フィリピン系財閥に加え、中華系やスペイン系など、いずれも創業の歴史は違えど、今やインフラ、金融、サービスと多方面に触手を伸ばすコングロマリット(複合企業体)に成長し、フィリピン経済を牛耳る存在となっている。

 

目立つ中華系財閥

 

 歴史・規模を誇るフィリピンの財閥の中でも特筆すべきは、新興財閥といわれる中華系財閥の存在である。

 今年故人となったが、2018年に米国フォーブス誌の世界長者番付の第52位(純資産額200億ドル)にランク入りしたヘンリー・シー氏が創始したSMグループの事業の嚆矢(こうし)は、シー氏が1958年に始めた小さな靴の卸問屋(Shoe Mart)だった。

 地場銀行最大手のBDOユニバンクを有し、最近では拡大する個人消費をうまく取り込み、ユニクロを運営するファーストリテイリングと提携するなど事業を急成長させてきた。

 フィリピン最大の食品・食料会社を有するJGサミット・グループのゴコンウェイ氏も華僑系だ。

 いずれもあまり裕福ではない中国の農村部出身の家柄で、アジアのフロンティアを求めてフィリピンに移り住んできた出自を持つ。まさにフィリピン・ドリームを体現してきた財閥たちである。

 

先駆者はスペイン系

 

 フィリピン・ドリームの先駆者であるスペイン系財閥の歴史は古い。

 スペイン・バスク地方を出身とするアヤラ一族は、18世紀ごろからプランテーションによるアグリビジネスで繁栄を極め、第2次世界大戦後、荒廃したマニラ市街地の再開発に尽力した財閥だ。近年では日本の三菱と組んで不動産開発などを手掛け、マニラの“ウォールストリート”と呼ばれる中心地マカティの大地主として、不動産業のみならず電力や交通インフラ事業にも参入し、マニラ振興の主要プレーヤーとなっている。

 「サン・ミゲルビール」をはじめとする、飲料事業で財を成したサン・ミゲル財閥は、日本のキリンとの酒類事業における資本提携でも有名だが、近年積極的な企業の合併・買収(M&A)や資源権益産業への進出など事業の多角化を進め、売上高2兆円を突破するグループへと成長を遂げている。

 

新たな動きも

 

 このように、フィリピンの経済成長を支える財閥は、さまざまな業種・業態をグループ傘下に抱えることでその強みを発揮してきたが、近年では、BPO(Business Process Outsourcing)など、既存の組織や産業の枠を超えた、技術と人材、データと現場の新たなマッチングを通じたオープンイノベーションにビジネスチャンスを見いださんとする動きがあり、ベンチャー企業を発掘するプラットフォームなどの動きも活発だ。次なるフィリピン・ドリームをつかむのは誰か。

(国際協力銀行 マニラ駐在員事務所 駐在員

宮原 綾子)

 

 (KyodoWeekly6月17日号から転載)