
新型コロナのワクチンが十分に入手できず、国民への接種もまだ1割にも達していないフィリピンでは、駆虫薬イベルメクチンを新型コロナ予防・治療に使用するかどうかをめぐり、なお論議が続いている。
イベルメクチンは北里大の大村智・特別栄誉教授(2015年のノーベル生理学・医学賞受賞者)が土壌から発見した放線菌から開発、米製薬会社メルクが製造している。
フィリピン保健省は5月10日、イベルメクチンの「適応外使用」を認めた。保健省はまだ、ヒト用には駆虫薬としてしか適応を認めていないが、医師の判断と責任で新型コロナ治療に使用しても構わないとしたのだ。
ここに至るには、複数の医師によるイベルメクチンの無料配布運動があった。
マニラ首都圏モンテンルパ市では市の保健課主任医師のアラン・ランドリト氏がイベルメクチンの効果を知り、市独自の判断で、市内のヘルスワーカーら感染の危険が高い職種や高齢者ら高リスク群の住民約1万人に昨年7月から、主に予防用としてイベルメクチンの配布を続けている。因果関係は不明だが、同市の累積感染者はマニラ首都圏17市町中人口比で3番目に低い。
ランドリト氏によると、高リスク群1万人への予防投与後、 昨年7月から12月までは投与後に感染した人は2%のみだった。変異種による感染が拡大した今年1月以降も10%未満にとどまっている。感染者に投与した結果でも無症状・軽症者はほぼ100%ウイルスが消失。中度の症状の場合も90%でウイルス消失が確認されたという。
イベルメクチンのフィリピンでの値段は15ミリグラム1錠70円ほどで、2週間おきに1錠飲めば感染を避けられるという。フィリピンの貧困層でも購入できる値段だ。
ランドリト医師は、米食品医薬品局(FDA)や世界保健機関(WHO)が効果に否定的なのは「数十倍高いワクチンを売りたい製薬会社の思惑が間違いなく絡んでいる」と話す。
日本政府は米国やWHOの判断に追随しており、イベルメクチンの新型コロナへの適応には関心を示していないようだが、フィリピンなど途上国の関心は非常に高い。
イベルメクチンの新型コロナへの効果について八木澤守正・北里大客員教授は「既に途上国を中心に世界32カ国での治験、使用で実証済み」と話す。
大村氏との連名の論文の中では「イベルメクチンはHIVやデング熱ウイルスが自己複製するため細胞核内移行をする際の酵素を特異的に阻害することも分かってきている」とし、ウイルスに対するイベルメクチンの効果は「20世紀最大の福音と言われる細菌に対するペニシリンの恩恵と比較して語られることになるかもしれない」とも書いている。
日刊まにら新聞編集長 石山 永一郎
(KyodoWeekly5月24日号から転載)