韓国で14年ぶりに生活しているが、今年の夏が一番きつかったように思う。過ぎゆく韓国の夏を想(おも)いながら、お世話になったのは「ピンス」だなあと思った。漢字では「氷水」と書くが、韓国の「かき氷」だ。
日本の「かき氷」と何が違うのかと言うと、日本のかき氷は荒く削るが、韓国のピンスはもっと細かく削る。それで、雪のような柔らかさがある。日本の「かき氷」はざらざら感が溶けていくおいしさなのに比べ、ピンスはふわふわ感があるとでも言おうか。僕は、すっかりピンス好きになり、これでこの夏を乗り切った。
韓国のピンスが大衆化したのは1890年代だという。韓国の「アズキ・ピンス」は日本の「金時」の影響を受けたのではと思う。韓国の「ピンス」が日本のかき氷と違うことのもう一つは、その量だ。普通はアベックや夫婦などが一つの「ピンス」を2人で食べるので、日本のかき氷の2人分以上ある。
僕の友人の日本人が、奥さんと子どもと3人で、初めて韓国へ家族旅行に来た時に、店で当然のように、ピンスを三つ頼むと店の人がびっくりしていたとフェイスブックで回顧していた。友人一家は「完食」したというが、さぞ涼しくなっただろう。
最近は韓国も「1人飯」をする人も多くなったので、1人でピンスを楽しむ人も多い。カフェなどでは「1人用ピンスあります」という張り紙をしているところもあった。
ピンスを食べる時、どういう風にトッピングを崩して食べるかを見れば、その人の性格も分かるような気がする。恋人たちが一つのピンスを食べることは、相手を知る何かコミュニケーションになっているようにも思える。
韓国のピンスはマンゴー・ピンス、イチゴ・ピンス、メロン・ピンス、緑茶ピンス、チョコ・ピンスなどといろいろあるが、一番伝統的なのが「アズキ・ピンス」だ。
日本でいえば、「ミルク金時」に近いかもしれない。アズキやきなこ、練乳、アイスクリーム、なぜか四角く小さく切った餅まで入っている。
今年、韓国で話題になったのは五つ星ホテルのカフェに登場した「シャインマスカット・ピンス」だ。その価格が9万8000ウォンで、日本円に直すと約9800円。「かき氷1杯が約10万ウォン」と韓国の各マスコミも取り上げた。普通は1万ウォンから1万3000ウォンくらいだと思う。
1杯のピンスにシャインマスカットを5房使っているという。4房の果汁を氷にし、残りの1房をトッピングしているというぜいたくさだ。
コロナで海外旅行に行けない人たちの欲求不満解消のぜいたくのせいか、1日20杯が毎日完売だという。
昔、ソウルのホテルに1万ウォン(当時のレートだと約3000円)の「うどん」が登場したと非難されたことを思い出したが、ピンスが10万ウォンしても、驚きはするが、非難の対象にはなっていない。それだけ韓国が豊かになったということなのかと思うが、それも時の移ろいだ。
ジャーナリスト 平井 久志
(KyodoWeekly9月6日号から転載)