エンタメ

「許し合えるからこそ、本当の愛情が生まれるのではないでしょうか」比嘉愛未 『親のお金は誰のもの 法定相続人』【インタビュー】

 三重県伊勢志摩を舞台に、伝説の真珠をめぐる家族の大騒動と成年後見人制度の問題を描くハートフルエンターテインメント映画『親のお金は誰のもの 法定相続人』が、10月6日から全国公開される。本作で真珠の養殖業を営む大亀家の三女・遥海を演じた比嘉愛未に、映画のテーマや演技について聞いた。

比嘉愛未(ヘアメーク:AYA/スタイリスト:後藤仁子) (C)エンタメOVO

-最初に脚本を読んだ時は、どんな感想を持ちましたか。

 私のドラマデビュー作の朝ドラ「どんど晴れ」の脚本家でもある小松江里子さんの作品に再び主演として呼んでいただけて、すごくうれしかったです。成年後見制度という社会問題になっているテーマと、遺産相続と親子や家族との関係の難しさみたいなものを描く中で、それをあまりシリアスになり過ぎずに、時には軽快に踊る場面があったりもして、強弱と言いますか、幅がとても広い作品だなと思いました。物語が深くて難しいからこそ、伊勢志摩の自然がそれを調和させてくれると思いました。

-では実際に演じてみて、どう思いましたか。

 私の中では遥海を演じる難しさと苦しさがありました。なぜ難しかったかというと、遥海のことが分かり過ぎるからでした。私も上京する時に親に大反対されたんです。それで反対を押し切って出てきたので、絶縁したわけではありませんが、家族と離れて自分はここに来たという思いがありました。でも、自分も大人になって、いろんな経験を経て、改めて親の愛を感じたり、あの時、反対してくれたからこそ、今自分はここにいると思えるようになりました。そう思えるのは、私もあの時の親を許し、親も私のことを許してくれたからです。

 親子の関係は人それぞれですけど、親や家族との関係は、人間の一番の悩みではないかと思います。家族って、お互いを許し合えない限り、愛情を育めないと思うんです。(田中光敏)監督も「許しと愛がテーマだ」とおっしゃっていて、まさにその通りだと思います。なので、遥海を演じていた時は、過去の自分を見ているような苦しさがありました。終盤の方で彼女が変わっていくことによって、自分自身も癒やされた感覚がありました。

-前作の『吟ずる者たち』(21)は広島の酒蔵の話で、今回は伊勢志摩の真珠の話。比嘉さんは沖縄出身ですが、こうした、ある特定の地方を描いた映画に出ることについての感慨はありますか。

 たまたまご縁があって続いたんですけど、私はもともと地産地消のものが好きです。沖縄と広島と伊勢志摩に共通するのは島々があることですが、ほかにも、地元のものを愛している人たちがいて、物作りが盛んで、それを基盤にして生活をしているという、独特のエネルギーがあるんです。それを表現して届けるのが私たちの仕事ですので、とてもやりがいを感じながら演じていました。

-今回は伊勢志摩でのロケでしたが、土地の印象はいかがでしたか。

 1カ月間、とてもぜいたくな時間でした。役を演じるのは難しくて、つらかったですけど、素晴らしい自然が目の前にあって、食事も何を食べてもおいしくて、それが生きるエネルギーになりました。伊勢志摩は自然と人間がちゃんと共存しているところなので、そのバランスの良さが一番の魅力だなと思います。

-弁護士・城島役の三浦翔平さんと父親役の三浦友和さん。2人の三浦さんとの共演で印象に残っていることはありますか。

 遥海は、城島とも父とも距離があって反発し合っています。なので、撮影の最初の段階ではお二人とも、私とは距離を置いてくださいました。特に示し合わせてはいないんですけど、徐々に距離を縮めるための気遣いだったのだと思います。すごく感謝しています。友和さんとの共演は一つ一つが勉強になることが多かったです。大先輩で圧倒的なオーラはあるんですけど、それが全く威圧的ではなくて。友和さんが自然体でいてくださったので、変に緊張をすることもなく役に入れました。友和さんのお芝居やせりふの伝え方は、演じている感じではないんです。もう本当に役を落とし込んでいる。そこにお父さんがいるという感じでいてくださるので、私も引っ張っていただいた部分がありました。お父さんの役は、認知症の疑いもあるので口数が少ないんです。その中でも、表情やその場の空気感を全部作って、“友和さんワールド”にしてしまうんです。これは、本当のスターの方の天性のものなのか…。本物の役者さんってこういうことなのかということを学ばせていただきました。