短かった秋も終盤、まもなく冬が始まります。体の芯まで冷えるこの季節は、より一層、温泉のあたたかさが恋しくなります。なにかとバタバタする師走を乗り切るためにも、温泉でゆっくり過ごし、英気を養いたいものです。山沿いなら、雪の景色を眺めながらの温泉を楽しむこともできますね。
今回は、そんな雪見温泉を楽しめるかもしれない、栃木県の「奥日光湯元温泉 紫雲荘(しうんそう)」をご紹介します。
奥日光湯元温泉は、栃木県日光市の山奥に湧く温泉地。標高約1500メートルの高地にあり、高原の山々の景色に囲まれ、湯ノ湖の湖畔に形成された温泉街には、20軒以上の温泉宿が並んでいます。広々とした源泉地帯には、熱々の温泉が湧き続けていて、温泉街に入ると濃厚な硫黄の香りが街中に漂っています。温泉好きとしてはこれだけでもうれしくなります。
今回ご紹介する「紫雲荘」は、温泉街の入り口にたたずむ全5部屋の小さな宿。登山好きの明るい女将(おかみ)さんの接客が楽しく、素朴であたたかい雰囲気の中で過ごすことができます。
お風呂は、内湯2カ所と露天風呂「月あかり」の計3カ所。どのお風呂も、3~4人サイズの湯船が一つずつの、こぢんまりとしたつくりです。また、すべてのお風呂が「貸切制」のため、他のお客さんを気にせずに、自分たちだけでゆっくり温泉を堪能することができます(日帰り入浴での利用は50分間の貸切制)。
雪深いエリアでもある奥日光湯元温泉。これからの季節は、露天風呂「月あかり」で「雪見露天風呂」を楽しむことができます。濃厚なミルキーグリーンの濁り湯と、落ち着いたこげ茶色の湯小屋、そして純白の新雪のコントラストが美しい空間。キリっと冷たい空気の中で入る硫黄泉は格別で、この景色を眺めながらの湯浴みは、視覚からも極上の癒やしを得ることができそうです。
泉質は、含硫黄-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉[硫化水素型]。源泉の湧出温度は70度と高温ですが、湯量調節などを駆使して、浴槽は熱めの適温に調整されています。しかも、加水・加温・循環・消毒のない「完全掛け流し」で提供。さまざまな温泉成分がふんだんに含まれ、甘くて芳ばしいさわやかな硫黄の香りが鼻腔(びこう)をくすぐります。少し緑がかった乳白色のお湯は、ツルツルすべすべとした感触。よく見ると、きめ細やかな湯の花がたっぷり漂い、手のひらで体をさすると、サラサラのパウダーをまとうような肌触りも気持ち良いです。湯上りは、その湯の花パウダーの効果か、お肌がツルツルでサラサラになり、透き通ったように感じました。
ちなみに、奥日光湯元温泉の源泉は、近隣の一大観光地である「中禅寺湖」へ引湯されています。10キロメートル以上離れてもなお、濃厚な硫黄を感じられる源泉ですので、湯元であるこの温泉地では、さらにフレッシュで濃厚な温泉を味わうことができます。
紫雲荘の館内には、ランチ営業の食事処「食堂ふく」が併設されています。そこでは、「栃木和牛」や、地元のブランド豚「日光ひみつ豚」、「ヤシオマス(ニジマス)」などを使用したメニューを食べることができます。
この日は日帰りでの旅だったので、温泉入浴後のランチは、こちらでいただくことにしました。注文したのは、「栃木牛ビーフシチュー」。ビーフシチュー以外に、八寸小鉢、ご飯、みそ汁がつく定食スタイルがうれしいですね。ビーフシチューは、じっくり煮込まれたお肉が口の中でほろりとほどけ、ご飯によく合う味わい。湯上りでおなかが空いていることもあり、あっという間に胃袋に収まりました。日帰り入浴と食事をセットにすると、入浴料金が割り引かれるのも、ありがたいサービスですね(入浴料金は人数、利用するお風呂によって変わります)。
なにかとせわしない12月。それに加えてぐっと冷え込んでくる季節は、1日の最後に入るお風呂が楽しみという人も多いのではないでしょうか。それが温泉であれば、さらに癒やされることでしょう。週末は、ちょっと遠出をして、都会の喧騒(けんそう)から一線を画す静かな温泉地でゆっくり過ごしませんか。運が良ければ、雪見露天で視覚からも冬を感じ、心も体もほっこりあたたまると思います。
【奥日光湯元温泉 紫雲荘】
住所 栃木県日光市湯元2541-1
電話番号 0288-62-2528
【泉質】
含硫黄-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉[硫化水素型](低張性 中性 高温泉)/泉温74.1度など/pH:6.5/湧出状況:混合泉/湧出量:不明/加水:なし/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全掛け流し
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。