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新しい旅と仕事のスタイル ワーケーション 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授  連載「よんななエコノミー」

 ワーケーションという言葉を聞いたことがある方も多いだろう。Work(仕事)とVacation(休暇)を掛け合わせた造語で、コロナ禍以降リモートワークでどこでも仕事ができるようになったこと、人口減少に伴い地域にとっては新たな観光需要や交流人口の創出が課題となっていることなどから、にわかに注目された旅行スタイルだ。

 一般的には休暇の滞在先で合間に仕事をする「休暇型」ワーケーションのイメージが強いが、ほかに「業務型」と呼ばれるタイプもある。まさに業務の一環として行うもので、企業の得意分野を地域課題解決に生かす「地域課題解決型」、滞在先でチームビルディングや研修などを行う「合宿型」、リモートワークの拠点をつくる「サテライトオフィス型」などがある。

 地域解決型は、例えば、林業が盛んなA市の地域課題が商品にならない半端な木材の廃棄だったとすると、家具メーカーのB社がA市に滞在し、地域の人々と交流し知恵を出し合いながら半端材を使った商品や活用方法を共に考えていくというもの。また、合宿型は同じ釜の飯を食う経験が仲間意識を高めることから、B社の新しいプロジェクトチームがA市でボランティア活動など共通の体験を行うことで良好なチームをつくり上げていくもの。サテライトオフィス型は、A市の休眠施設をB社が地域の拠点オフィスとして利活用し、例えば遠方の実家にいても社員が通勤できるようにするものだ。

 業務型の場合、Vacation(休暇)の要素は少ないが、働き手・企業・地域それぞれに大きなメリットがある。働く人々にとっては新しい経験とアイデアの創出、ストレスの軽減、働き方の選択肢の増加など、企業にとっては地方創生への貢献や社員の能力アップ、地域にとっては平日の来訪者や関係人口の増加、休眠施設の活用といった、まさに三方良しの新しい旅のスタイルであり、ある意味、新しい働き方ともいえる。

 積極的に取り組む企業や自治体も増えており、企業では日本航空やユニリーバ、野村総合研究所などが導入しているほか、自治体では北海道北見市が地元大学を卒業した学生が市外に流出してしまうという課題に対し、同市でワーケーションプログラムの実施やサテライトオフィスの設置を促すことで、いったん流出した人材を再び定住人口として呼び戻すモデルを模索している。

 Work(仕事)とVacation(休暇)、これまでは相反する関係にあった二つだが、組み合わせてみると意外な効果を生むこともある。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.22からの転載】