自国の言葉を話せないライターが、自分の子供と異国の言語で話す文化人類学者と書簡を交わす。そこに詰まっているのは、自らのルーツと言語、それぞれの幼少期と、言葉で表現できないような身体感覚についてだ。『ガラスと雪のように言葉が溶ける 在日韓国人三世とルーマニア人の往復書簡』(尹雄大、イリナ・グリゴレ著、大和書房、税込み1760円)が7月16日(水)に発売される。
著者の尹雄大(ゆん・うんで)氏は神戸市生まれ。テレビ制作会社勤務を経てライターになった。体や言葉の関わりに興味を持っており、その一環としてインタビューセッションを行なっている。一方のイリナ・グリゴレ氏はルーマニア生まれの文化人類学者。日本に留学して一時帰国後、国費留学生として再来日し、青森県内を主なフィールドとして、獅子舞や女性の信仰を研究。バヌアツで女性を対象としたフィールドワークなども行っている。
この二人が率直で美しい日本語で書簡を交わしている。あとがきには「人種、出身国、先祖の国、言語、学歴、性別などなど、世界の見方が違っていてもお互いから勉強することはある。自分と違う他者がこの世にいて、その他者の原風景を知り、調べることが世界を変える道への一歩だ」とある。言葉は、複眼的視点で世界を見るためのツールになるのかもしれない。