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政府のかけ声だけで米増産は困難 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連載「グリーン&ブルー」

 このまま農家数が減り続けると、いつか米が足りなくなる日が来るかもしれない。—そんな思いが芽生えたのが2019年。さっそく新潟県内の農家や政府、研究者らに話を聞いた。

 8名の生産者のうち半分が「不足するかもしれない」と回答。理由は「規模拡大すると、機械、設備への投資が必要になるため、離農した農家の水田を預れるとは限らない」「中山間地域は引き受け手がいない」だった。一方「不足しない」と答えた農家は、「生産量以上に消費量が減る」「若い人ほど米を食べなくなるから」と答えた。専門家は「生産力が低下した地域があるのは事実だが、それで需給が締まれば、主産地が供給量を増やすので、全国レベルでの不足にはならないのでは?」との意見だった。農家の考え方が割れたことから筆者も「不足は当面ないだろう」と結論づけてしまった。

 今になって「米不足の要因は、長年生産を抑制してきた減反政策にある」という声もあるが、19年当時、この視点から減反を問題視する専門家を見つけられなかった。その後、米不足の可能性に言及したのはシンクタンクの三菱総合研究所だ。生産力の低下により主食米の供給が減り、需要に追いつかなくなる時期が来ると予測した。

 米不足がこれほどまでに社会問題化したのは24年だが、23年からすでに主食米の在庫が減り始めていた。聞き取りを行ったわずか4年後のこと。もっと深掘りしておくべきだった。

 「足りない」「高い」という消費者の声に応えようと、政府は増産を打ち出している。「増産して価格が下がれば所得補償を」とも言っているがあまりにも短絡的だ。

 つい先日、新潟県の米農家7名に、政府の方針通り増産する意思があるかどうかを尋ねた。「規模拡大して増産する」は皆無。「飼料用などに向けていた米を主食米に切り替えることは検討中」が2名、「増産は考えていない」が5名だった。増産しない理由を尋ねると「従来から、取引先が求める量、質の米作りをしてきたのでこの方針は変えない」「労働力がない」「農政はコロコロ変わるからあてにならない」などだった。

 これらは、あくまで新潟県で比較的大規模なプロ農業者の意見であり、地域や経営規模により考えは異なるだろう。また現時点では、増産を考えていないという農家も、今後の需要や価格動向次第では、設備投資を前提にした増産へと動くかもしれない。

 そのために、政府に精度の高い需要の予測と、生産及び流通の実態数量の把握が求められる。指標の精度が高まれば、農家は経営判断を下しやすくなる。流通に改善の余地があるなら、流通業者自ら着手すればいい。政府でなければできないことと、米市場を担うプレーヤーに任せることを明確に区別すべきだ。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.29からの転載】