農業を専門的に学ぶ高校生が全国に約7万5千人いる。単独の農業高校、農業科などを含む総合学科を設置する高校を合わせて、約360校ある。
農業高校というと、農家の子弟が通うイメージを持つかもしれないが、実態は異なる。近年は、農家出身ではない非農家の子弟、そして女子生徒が多い点も特徴だ。「農や食について学びたい」と普通高校を選ばず、農業系高校を志願する生徒も少なくない。農学系の大学には、農業高校出身者が少なからずいるが、プロジェクトの遂行能力や知識、技術は断然高い。農業高校共通の「農業クラブ」という活動が下地としてあるからだ。生徒自らが課題意識を持ち、地元農家や企業などの協力を得ながら解決方法を探るプロジェクトに取り組み、大会などで発表したり、実技や知識を競い合う大会に出たりする活動が農業クラブだ。
こうした農業系高校の学生に特化した奨学金制度がある。公益財団法人コスモス財団(新潟県)が、将来の日本農業を担う生徒を支援しようと2024年度から始めた。学業成績、農業クラブなど農業学習における評価、作文をもとに、保護者の家計も考慮しながら選考し、35人の生徒に20万円を支給する。返済は求めず、使途も限定しない。
24年度の奨学生から、財団宛てに直近の生活レポートが送られてきた。選考委員として携わっている筆者はレポートを見る機会に恵まれたが、奨学生たちの向学心の高さに目からうろこが落ちた。奨学生に選出されたことで、アルバイトをすることなく、資格取得のための教材費を購入できた、通学のための自転車の修理費に充てられたなど率直に使途を書いている学生が多かった。すぐに使わず、志望先の大学の学費に充てたいという学生もいる。「植物学者をめざす」という学生は、すでに自ら図鑑を出版したつわものだ。奨学金で購入したコピー機とタブレットは、新たな図鑑出版に役立てるそうだ。別の学生は、高校生活が充実していたことから、将来は農業教員になって自分が教える立場になりたいと抱負を語っていた。
奨学生以外にも、農業系高校には勤勉で好奇心旺盛な生徒が多いことは、農業教育に携わる関係者が口をそろえるところだ。一方、農業高校を含め実践を学ぶ専門学校では、施設や設備の老朽化が目立ち、先ごろ石破茂首相が支援拡充の意向を表明した。
多くの産業で人材不足が課題となる中、農や食に早くから関心を抱く若者たちが安心して勉学に打ち込める環境づくりは、農業生産のみならず食料産業を支える人材育成の点からも欠かせない。ひたむきな生徒たちの姿は一次産業の未来が決して暗くはないと感じさせる。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.14からの転載】