先日訪問した北海道厚真町の「木の種社」という製材所は、広葉樹を中心とするさまざまな丸太を近隣の山から仕入れて製材し、それを床板に仕立てて販売するという仕事を一貫体制で手掛けていた。従業員はおらず、それらの仕事は代表の中川貴之さん(1982年生まれ)が奥さんの真理子さん(81年生まれ)の手助けも得ながらコツコツと行っている。
仕入れる丸太は細くて曲がっていたりと、大きな製材工場なら相手にしてくれそうもないものが多く含まれる。樹種も非常に多様だ。
製品の床板は、長さも幅もさまざまで(専門用語で「乱尺」「乱幅」という)、いくつもの樹種が混在した板を組み合わせて床に張るようになっている。そういう製品を自分でつくる事業スタイルだからこそ、いろいろな丸太を原料にできるわけだ。
最近数十年間の日本林業は、北海道ならトドマツとカラマツ、本州以南ならスギ、ヒノキ、カラマツと、主に針葉樹人工林をターゲットとして需要開発などの取り組みが展開されてきた。それらの多くは、広葉樹を中心とするさまざまな樹種が生えていた天然林を伐採して植林されたもので、特に高度経済成長期には、全国規模で針葉樹人工林への植え替えが進められた。
この「拡大造林」と呼ばれる一大事業によって広葉樹資源は激減し、林業樹種としての立場が著しく後退してしまった。広葉樹の主な用途である家具や各種の木工品には、ヨーロッパや北米を中心とする外国産の広葉樹が多用されるようになった。
ところが、最近、拡大造林期に針葉樹への植え替えが行われなかった産地を中心に、地元の広葉樹を見直そうという動きがいくつも出てきている。背景には、日本のもともとの植生に即した木材利用が森の多様性を保持する上でも大切だという気づきがあり、いずれも規模は大きくないが、関係者の熱量は高い。
急進した円安により、海外からの木材調達が大幅なコスト高になっていることを受け、家具メーカーや木工作家といったユーザーの間で国産の広葉樹を利用しようという機運が高まっていることも追い風となっている。
北海道大学で森林を学んでいる女子学生が木の種社の製品について「森をそのまま床にしたみたい」と語るのを聞き、まさにその通りだと思った。多様な樹種で構成される日本の森の魅力をそのまま伝えてくれる取り組みが増えていることを歓迎したい。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.8からの転載】