ビジネス

「フィールドワークのまち」を目指す富士市の挑戦 沼尾波子 東洋大学教授 連載「よんななエコノミー」

 社会課題の解決に向けて、地域の現場と大学が連携する取り組みは各地でみられるようになった。だが、大学生が地域の現場で実践的な学びを行うフィールドワーク先を見つけることは、それほど容易ではない。そう思っていたところ、先日、静岡県富士市からユニークな視察ツアーの案内があった。

 富士市では2017年に市内から大学が撤退したことを契機に、大学との連携による教育機会の創出と、持続可能な地域社会の実現を両立させることを目指し、産官学の協働が模索されてきた。若者の学びと地域づくりを結びつける取り組みとして、大学生がワークシェアで企業コンサルティングを行う社会実装支援事業なども行われている。

 こうした取り組みの一環で25年7月に実施されたのが、大学研究者らを招いた「フィールドワーク視察ツアー」である。

 ツアーは1泊2日で、首都圏の大学から16名の教職員らが参加した。市の施策について「まちづくり」「次世代産業」「公共交通」「駅前再開発」をテーマに話を聞いた後、製紙工場や富士山の湧き水が流れる公園、茶畑、田子の浦港などを見学した。田子の浦港では、地元漁協や市職員とともに、水質浄化へのこれまでの取り組みや、近年のシラス不漁の対策や港の活性化などの地域課題について意見交換を行った。

 市内各地の現場で社会課題などに触れながら視察を行うことで、教育や研究に取り組む足がかりを得ることができる。視察後には、市役所や地元事業者との交流会も開催され、連携のきっかけづくりの場となった。

 富士市では、市の中央図書館の一角にフィールドワークセンター「ふらりば」を設置しており、現地調査の拠点として利用することができる。また、大学の研究者や学生に向けた地域情報の提供や活動支援を行うとともに、交通費・宿泊費の補助制度も整備し、受け入れ体制の強化を図っている。フィールドワークに加え、インターンシップや共同研究、小中高生への学習機会の提供など、多様な学びの機会の展開も期待されている。

 人口減少が進み、若い世代の流出が懸念される地域にあって、大学との連携を通じて、若者が地域のさまざまな場面で活動できる機会を創出することは、持続可能な地域づくりの足がかりとなるだろう。大学にとっても、地域との協働は学びの質を変える契機となる。

 学生に富士市の話をしたところ、日本茶のブランディング、「観光公害」、多文化共生、公共交通の展望など、富士市で調べてみたいテーマが複数挙げられた。調査を通じて、新たな交流が生まれそうである。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.31からの転載】