はばたけラボ

【はばたけラボ 連載「弁当の日の卒業生」⑦】台所仕事は面倒くさいじゃなくて「楽しい」

 未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」の新連載「弁当の日の卒業生」。「弁当の日」、その日は買い出しから片付けまで全部一人で。2001年に香川県の小学校で始まった食育活動は、約25年を経て全国に広がっています。その提唱者である竹下和男氏が「弁当の日」の卒業生の今をつづります。

 

▼楽しい台所

 「4歳の子がね、根菜類が苦手なんです」。もうすっかりお母さんになっていました。

 「二人目の子もお腹にいます。子育ては楽しいです。台所仕事は面倒くさいじゃなくて、楽しいです」。うれしいことを言ってくれます。

「息子はレタスやキャベツやピーマンは食べるけれど、ニンジンやゴボウは苦手で、昼休みになっても教室に居残って給食を食べさせられているようです」。話しぶりに深刻なトーンはありませんでした。「私も子どものころニンジンの、妙に甘いのが苦手でした。息子も自宅で、ニンジンを細切りにしたり、みじん切りにしたりして炒めてやると普通に食べられているから気にしないことにしています。息子も私と同じなんですよ」

 「弁当の日のおかげで、友だちとよく料理の話をしました。弁当のおかずだけでなく、普段の夕食の作り方を聞いて、自分の家であれこれ試してみるんです。うまくいってもいかなくてもお互いの話題にして楽しめました。初挑戦した料理は、一回目からうまくは作れないけれど家族からいいアドバイスをもらえるし、何より家族が喜んでくれるのがうれしかったです。中学校・高校とバスケットボールに夢中になり、弁当はいつも母親に作ってもらっていました。高校を卒業して県外の短大へ進学したので自炊生活が始まりました。就職しても自炊でしたが料理を苦にしたことはありません」

 「得意な料理を作るために買い出しに行くってことがないんです。スーパーの中を歩きながら、食べたいなーと思った肉や魚や野菜を買ってきて作ります。そしたら、いろんな食材が少しずつ冷蔵庫の中に残っていくので、ときどきそれを使い切るような料理をしています。今は結婚して三人家族ですが、自炊の時よりだんぜん食材を有効に使いきれると思います。鮮度の落ちやすい野菜は日持ちする濃い目の味の常備菜にしておきます。それが2、3種類あると、食卓がちょっとリッチに見えるからうれしいです」

 彼女はまだ、息子を台所に立たせていません。私も勧めません。何より、料理を楽しめていることが子どもにいい影響を与えていると分かっているからです。そのうち子どもが台所に立ちたがります。

 竹下和男(たけした・かずお)/1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。

 #はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。