はばたけラボ

【はばたけラボ インタビュー 先輩に聞く】 デジタル×女子は未来のゲームチェンジャー  NPO法人Waffle 理事長の田中沙弥果さん 

Waffleの理事長を務める田中さん(Waffle提供)

 未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。

 AI(人工知能)が存在感を増し、プログラミングは小学校の必修科目に。そんな中でも、本当はテックが得意なのに尻込みする女子は多いという。NPO法人Waffleは、IT・テクノロジー分野でのジェンダー・ギャップ解消に向け、女子中高生向けの教育プログラムを展開している。理事長を務める田中沙弥果さんに話を聞いた。

――ご自身は文系だったのですね。どんな子ども、学生時代でしたか。

 3人姉妹の真ん中っ子です。小学校時代からリーダーシップを発揮したいという気持ちが強く、ガールスカウトにも所属していました。嫌いな科目はなかったです。母親に薬剤師になることを勧められて高校では理系を選んだのですが、1週間ほどオーストラリアに行ったのを機に世界に興味を抱き、外国語を専攻する大学に進みました。周囲には航空業界などを目指す人が多かったですが、ずっと教育に関心がありました。

■中高生で、一気に性差出現

――ITに関心を持ち、Waffleを立ち上げられたのはなぜですか。

 米国留学中にテクノロジーと音楽・映画を組み合わせたイベントに行った際に、テクノロジーの可能性や面白さを知り、この世界で働いてみたい!と。今では当たり前ですが、スマホで食べ物を注文したり、端末で描いた絵がすぐにTシャツになったり、音楽とテックを組み合わせたり。ただ、日本での就職活動では、納得できるテクノロジー業界の職種が見つかりませんでした。

 その後、起業家や技術者を目指す女性を支援する米国のボランティア団体「Girls in Tech」の活動に携わりながら、子ども向けのIT教育を広げるNPO法人「みんなのコード」に入りました。学校のプログラミング教育を担当したのですが、小学校では男女の積極性に全く違いがないのに、中高生向けのコンテストになると参加者の男女比が20対1と女子が一気にいなくなることを知りました。ああ、ここで格差ができるのか、と衝撃で。すぐに副業で女子中高生向けのIT教育支援を週末や平日の夜間をつかって始めました。それが、Waffleの始まりです。

――展開しているプログラムを教えてください。

 「Waffle Camp」は、オリジナルのウェブサイト制作、IT業界で働く女性の講演などを組み込んだ1日完結プログラム。こちらが現地に行って、学ぶ機会をつくります。部活動などで週末を使った受講が難しい地方の公立校の生徒も参加しやすい取り組みを、地方都市に届けたいという着想から生まれました。

 「Technovation Girls」は、世界100カ国以上が参加する米国の国際的な女子中高生アプリコンテスト。日本公式アンバサダーとして独自プログラムを展開しています。半年の期間中に参加者がアプリ開発やビジネスに関する講座を無料で30時間以上受講し、ピッチイベント出場を通してスキルアップします。もう一つが、IT系のキャリアに興味がある女子大学生・大学院生向けの「Waffle College」です。

清泉女子大学で行われた「Waffle College」(Waffle提供)

――Waffleのプログラムの特徴、利点を教えてください。

  全ての教育プログラムが、女子学生と性自認・性表現に男女といった枠組みを当てはめない「ノンバイナリー」を限定としています。男女が同じ場にいると、男子が開発、女子がサポートの役割になりやすいですが、女子とノンバイナリーだけになると、自分でつくり、リーダーシップを発揮しなければならない。周りを気にせず、新しい知識やスキルを習得できるのです。


 プログラムには、ジェンダーやリーダーシップを学べる内容を必ず入れています。「女子は数学が苦手、プログラミングは男子が得意って、皆が思っているのはなぜ?」というところから、ステレオタイプやジェンダーバイアスについて知ってもらう。リーダーシップも、男性的にぐいぐい引っ張っていくだけではなく、オーセンティックリーダーシップ(カリスマ性に頼らず、人格で人を導く)がありますよね。

「Technovation Girls」の受賞者と田中さん(右端、Waffle提供)

――学生時代に意識を変えても、社会では再びジェンダー障壁に阻まれる。卒業生にどうあってほしいですか。

 毎年、卒業生が1000人ほど生まれるようになりましたが、テクノロジーとジェンダー両方の視点で社会をよくする人間になってほしいです。卒業生には、英国の大学院でジェンダーを専攻しながらPythonを学んでいる人や、エンジニアとして働きながらウーマンインテックの社内イベントをしている人も。


 でも、それぞれは、やっぱりずっとマイノリティーです。組織の中でどう対応し、頑張っていくか。卒業生を野放しにするのではなく、互いをエンパワーメントできる場が必要だと考え、今、コミュニティーづくりを進めています。業界トップの方にも参加してもらい、社会の意識改革も一緒にやっていきたい。いつか、理系やエンジニア、リーダーは男性という意識が消える社会になればいいと思います。

 

■女子がIT分野に入る意味

――世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数(2024年発表)で、日本は世界146カ国のうち116位。改善が進みにくいのはなぜでしょう。変革のカギは。

 日本は、戦後の高度経済成長期に産業構造が男性主体に出来上がり、残業、メンバーシップ雇用、転勤、性別役割分業などの仕組みも、女性にとって仕事がしづらいものですね。政治も男性主体で、意思決定の場にも女性がいないというのが、そこから抜け出せない根本の問題かと思います。

 ただ、それを変えるのが、デジタルだと思っています。今は、AIにより急激に世界の産業構造が変わり始めていますが、日本ではDXが「効率化」にとどまり、遅れています。そこで、若い女性が最先端のAI技術を持って、新しい価値を創造したり、地方の課題解決をしたりできれば、大きなゲームチェンジになると思うんです。時代が変わる中で、AIや新しいテクノロジーに、いかに女性や多様な視点が入っていくか。産業も、性別にかかわらず多様な人々が共につくる未来があれば、権力構造もジェンダー平等に変わってくると思います。

 

———最後に、ヒトが人になるために必要なことは?

 志(こころざし)。Waffleの事業を進める中でも手を差し伸べてくれる人がたくさんいます。「次はこういう一手を打ちたい」という話をした時に、新たな人につなげていただき、広がるご縁、世の中が変わっていくように感じることが多くあります。「人」は、人がつながって支え合っているような形の漢字。「志」が人同士をつなげてくれると思います。

 

田中沙弥果(たなか・さやか)/1991年、大阪府出身。2017年、NPO法人「みんなのコード」に入職、プログラミング教育授業に関する事業を推進。2019年、一般社団法人Waffleを設立(現在はNPO法人化)。2024年世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズ(YGLs)2024など受賞。25年、文科省の中央教育審議会委員に選出。

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 #はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。