韓国の大法院(最高裁判所)は10月16日、韓国を代表する財閥SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長と、妻、盧素英(ノ・ソヨン)氏の離婚訴訟で、崔氏に対し、盧夫人に財産分与として1兆3808億ウォン(約1470億円)を支払えとした二審判決を破棄し、ソウル高裁に差し戻した。
韓国を代表する財閥トップの不倫、夫婦の泥沼の非難合戦、妻は盧泰愚(ノ・テウ)元大統領の娘、大統領の秘密資金、離婚訴訟としては史上最高の支払額―と、韓流ドラマ顔負けの離婚訴訟は「世紀の離婚訴訟」と注目を集めた。
崔氏と盧氏は1988年9月に結婚した。大統領の娘と財閥、鮮京グループ(SKグループの前名称)会長の長男の結婚だけに大きな注目を集めた。夫妻は1男2女をもうけ、円満な家庭を営んでいるとみられた。
「鮮京グループ」は植民地からの解放後、韓国の繊維企業として成長し、1970年代には石油化学部門に進出、次第に規模を拡大し財閥へと成長し1998年にSKグループと改称した。崔泰源氏は父、崔鍾賢(チェ・ジョンヒョン)氏が同年に亡くなると37歳でグループ会長に就任。SKグループはその後、半導体、バッテリーなどに進出し、崔泰源会長はグループを、韓国のトップ級財閥に成長させた。
しかし、崔会長は2015年12月に突然、婚外子がいることを明らかにした。韓国の憲法裁判所は同年2月に刑法の姦通罪を違憲とする判断を下し、同罪は廃止された。崔会長の告白はその後だった。
崔会長は夫人に離婚を求め、2018年2月に正式に離婚訴訟に入った。2022年12月、一審は崔会長に慰謝料1億ウォン、財産分与で665億ウォンを支払えとした。
しかし2024年5月、二審判決は慰謝料20億ウォン(約2億円)と、双方の合計財産を約4兆ウォンと見て、盧夫人に、その35%、1兆3808億ウォン(約1470億円)の財産分与を行えとした。
裁判所はこれを現金で支払うよう命じたため、崔会長がSKグループの持ち株会社の株式を売った場合、経営構造を揺るがす事態になるのではという危惧も出た。崔会長は窮地に陥り、上告した。
二審の裁判過程で、盧夫人側は盧元大統領の夫人が保管していた「鮮京300億」と記したメモなどを公表し、盧元大統領が崔会長の父、故崔鍾賢会長に秘密資金300億ウォンを提供し、これが鮮京グループの事業拡大に使われたとした。崔会長の保有株式などはこれを基盤にしたものだとして財産分与を要求したのだ。
しかし、大法院判決は、盧元大統領の秘密資金が渡ったとしても、それは賄賂であり、不法行為を原因にした資産を理由に請求権を主張できないとした。
また二審が示した「65対35」という財産分与の割合は秘密資金の貢献度を認めた上での判断であるため、見直さなければならないとした。
大法院判決で離婚は決まり、慰謝料20億ウォンも確定したが、財産形成で盧元大統領の秘密資金の貢献度が除外されたために、盧夫人への財産分与は大幅に軽減されるとみられる。崔会長は日韓経済協力に最も熱心な財界リーダーだが、今でも秘密資金の解明を求める声がある。慰謝料20億ウォンは韓国では離婚慰謝料としては史上最高額で、今後の離婚訴訟に影響を与えそうだ。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 43からの転載】

ひらい・ひさし 共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。









