先日、福島県国見町で活動する株式会社「陽と人(ひとびと)」代表の小林味愛(みあい)さんのお話を聞く機会に恵まれた。その事業展開には目を見張る。
最大の魅力は、人口減少と高齢化が進む地方において、「善意」や「一時的支援」に依存するのではなく、地域に持続的にお金と誇りが循環する仕組みを、現場主義と人への敬意をもって築いてきた点にある。
小林さんは、国家公務員やシンクタンク研究員としての経験を経て、東日本大震災を契機に「現場で誰かの役に立つ仕事」を志し、縁もゆかりもない福島県国見町へ単身移住した。計画や肩書を持たない出発であり、当初は受け入れてもらえなかったという。だが早朝からの草刈りや農作業を黙々と続け、見返りを求めない関わりを積み重ねることで、数年をかけて信頼を獲得したそうだ。
活動の根底にあるのは、「人口が増えないことを前提に、地域産業をいかに維持・再構築するか」という問いである。地域内需要に依存せず、地域外から〝外貨〟を獲得し、それを地域に還元する循環をつくることを掲げ、農業を軸に事業を展開してきた。
農業分野では「価値がない」とされてきたものを再評価する視点で事業を展開する。桃の産地である国見町では、見た目を理由に市場に出せず、畑に廃棄されていた果実が生産量の約4割に及んでいた。これらの桃を全量買い取り、物流・加工・販路を自ら整備することで、ゼロ円だった果実を収益に転換している。さらに、農家の負担を増やさない「取りに行く物流」も構築した。
加えて、桃の中でも特に品質の高い部位や、量が集まらず流通に乗らなかった希少品種を再評価し、国内外の需要と結びつけて高付加価値化を実現。その結果、生産者1人当たり年間数十万〜数百万円規模の売り上げが向上し、農業に希望の灯(ひ)をともす。

もう一つの柱が、女性を取り巻く課題への取り組みである。あんぽ柿づくりの過程で廃棄されてきた柿の皮に着目し、研究機関と連携して分析を重ね、女性の心と体の健康をケアする、フェムケア商品として開発した。廃棄物だった柿の皮は高値で買い取られ、売り上げは生産者へ還元されるとともに、女性の健康課題に向き合う情報発信や場づくりへとつながっている。
この取り組みは、単なる農産物加工や地域ブランド化にとどまらない。信頼を基盤とした関係経済の構築、情報の非対称性を埋めるシステム構築、次世代への承継を前提とした経営思想が一体となっているところに独自性がある。事業は、若い世代や地域の人々が挑戦し続けられるように設計されている。
時間をかけて信頼を積み重ね、捨てられてきたものや見過ごされてきた価値を、経済と倫理が両立する形で編み直す。その実践は、人口減少時代の地域づくりにおける、丁寧で説得力のある一つの解を提示している。
(東洋大学教授 沼尾波子)
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.3からの転載】









