「いやー、ちょっとロス(ロサンゼルス五輪出場)が見えちゃった…」。インタビューにドヤ顔で答えた。その泳ぎは自信に満ちていた。3月の競泳日本選手権。男子1500メートル自由形で23歳の田渕海斗(尼崎SS)が、驚きの好タイムで初優勝した。昨年の世界選手権日本代表の18歳、今福和志を残り200メートルで突き放し、今福が持っていた日本記録を4秒以上も更新した。
競泳の国内大会は、2024年パリ五輪で日本はメダル1個と惨敗し、スターも不在で最近は注目度が低かった。しかし、今大会は久々に華やいだ。テーマは「新世代」。20歳以下の選手が主力となり、特に男子100メートル平泳ぎで日本新記録を出すなど平泳ぎ3冠を獲得した17歳、大橋信の勢いには目を見張った。
ただ、新勢力にストップをかける「先輩」が出てこなければ、面白くない。その1人が田渕だった。昨年までは400メートル個人メドレーがメイン種目だったが、五輪には届かなかった。新たな環境を求めて昨年4月、名コーチ平井伯昌氏が監督を務める東洋大に拠点を移した。平井氏と相談して長距離の1500メートルに挑戦し、厳しい練習に耐えて記録を伸ばした。
この種目は近年、世界から大きく遅れていたが、優勝タイムの14分45秒57は五輪でも決勝進出が見えてくる。「(今福)和志と一緒にロスに行きたい。世界で戦えるような選手になりたい」と言葉が弾んだ。
もう1人印象に残ったのが29歳の松元克央(ミツウロコ)だ。男子200メートル自由形で好記録を出し、昨年の世界選手権で銅メダルの19歳、村佐達也に次いで2位。自身が日本記録を持つ100メートル自由形では、出場4種目制覇を狙った村佐をかわして優勝し、インタビューで「まあ、当たり前ですね」と言ってのけた。
200メートルの金メダル候補として臨んだ21年東京五輪。重圧と緊張で予選落ちの挫折を味わった。パリ五輪では8位。日本の第一人者としての地位を築いたが、昨年の世界選手権で村佐に200メートルの日本記録を破られた。
ここのところ100メートルと50メートル種目に力を入れてきたが、200メートルを泳ぎたくない理由を自問自答。長い距離の練習は体力的に厳しく「若干逃げ気味の理由だった」と自覚した。すると「自分の弱い部分がどんどん目立つ」と感じ「逃げずにチャレンジしてみよう。水泳人生で悔いのないように」と、本来の得意種目に再び挑んだ。その心意気がいい。800メートルリレーでも精神的支柱となる。
日本代表は8月のパンパシフィック選手権、9月のアジア大会へ向かう。若手の成長だけでなく、ベテランの奮起も見たい。
正田裕生(しょうだ・ひろき) 共同通信編集委員。埼玉県出身。総合商社勤務後、1991年に共同通信社入社。水泳、バスケットボール、テニス、IOCなどを取材し、五輪は9大会で現地に。運動部、ロンドン支局などを経て現職。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.18からの転載】









