清流とともにある暮らしは、高知の大きな魅力の一つだ。その豊かさを象徴するのがアユ。全国の川から集めた天然アユを食べ比べる「利き鮎会」では、その味の違いを通して川ごとの個性や豊かさを体感できる。しかし、その豊かな川の環境はいま危機にさらされている。次世代へ清流をつなごうとする取り組みを追った。
▼利き酒ならぬ利きアユ
「お酒が水や米によって味が違うように、アユも川ごとに、あるいは捕れる時期や個体によって全く味が違うんです」。
そう話すのは、物部川漁業協同組合の組合長・松浦秀俊さんだ。京都大学農学部水産学科出身で、高知県庁の水産技術職員として内水面漁業センター長などを歴任した一方、プライベートでは年間100日ほど竿を握る筋金入りの釣り師でもある。
彼が設立当初から関わる高知県友釣連盟のユニークな試みがある。高知市内の老舗旅館の宴会場に、全国各地の清流から届く約3000尾のアユ。名物イベント「清流めぐり利き鮎会」だ。テーブルには、水分を絶妙に飛ばしながら職人技で焼き上げられたアユがずらりと並ぶ。壮観な光景だが、参加者はすぐに箸をつけられない。「普通ならあいさつしてすぐ乾杯ですが、うちは違う。最初にミニ講演を聞いてもらいます」。参加者はまず川の現状を学び、その後に完全なブラインド状態でアユを食べ比べる。それが松浦さんたちのこだわりだ。


▼天然アユの激減
高知県の地形は、扇形の土佐湾の背後に2000メートル近い山々が連なり、年間降水量は3000ミリに達する。澄み切った水が、短い流路を、石を転がしながら勢いよく下る。海から遡上(そじょう)して川底のコケを食べて育つアユにとって、まさに最高の環境だ。
地元では「脂の乗ったトロよりサッパリした赤身」が好まれる。骨も皮も柔らかい5、6月の若アユを1ミリ幅にぶつ切りにした「背越し」を、何もつけずに生で食すのが至高のぜいたくだという。夏になれば近所の誰かが釣ってきたアユを米などと物々交換する。これが、高知の当たり前の日常だった。
だが、その循環が今、崩壊の危機にひんしている。全国の天然アユの漁獲高は1970年代のピーク時から10分の1に、高知県内では20分の1にまで激減した。長年水産行政の最前線で科学的に川と向き合ってきた松浦さんは「これは神の試練じゃない、人災です」と断言する。戦後、各地に建設されたダムが砂礫(されき)をせき止め、川底を痩せさせ、主食であるコケの質や産卵場の砂利を奪った。その結果、海と森のつながりが絶たれ、川の生態系そのものが弱っているのだ。


▼清流という奇跡
「われわれはこれまで年間1000匹単位でアユを殺してきた。だからこそ、最後の罪滅ぼしとして、子どもたちに川の楽しさを伝えていきたいんです」。
松浦さんは今、流域の子どもたちを川へ呼び戻す活動に最も力を注ぐ。いきなりアユ釣りは難しくても、ゴリやエビ捕りを通じて「川に行けば楽しい、帰りたくない」という原体験を植え付ける。その小さな感動が、10年後、20年後に川を守ることにつながるはずだ。清流という奇跡を次の世代へ引き継ぐため、松浦さんたちの活動は続いていく。








