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「風邪」に抗菌薬は効きません! 薬剤耐性菌を増やさないために正しい知識を

 薬が効かない薬剤耐性(AMR)が世界中で大きな問題になっている。抗菌薬(抗生物質)の不適切な使用が、抗生物質が効かない薬剤耐性菌が広がる大きな原因の一つとして挙げられている。国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター(東京)によると、日本でも、主な2種類の薬剤耐性菌だけで年間8000人が亡くなっていると試算されており、薬剤耐性菌の拡大を防ぐことが人類にとって喫緊の課題となっている。

 そのような中、同センターは、政府が策定した「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023-2027」に基づき、AMR対策を進めている。

 同センターの佐々木秀悟医師の解説によると、 「風邪」とは、「鼻水」 「のど」 「せき」 の三つの症状が同時に同じくらいの程度で存在する感染症で、原因の多くは「ウイルス」(インフルエンザウイルス・RSウイルス・ヒトメタニューモウイルスなど)。ウイルスは細菌と違って自身の力で増殖することができないが、人間など他の生物の細胞に入り込み、その機能を利用することで増殖ができる。細菌とウイルスは全く異なる仕組みをもつ病原体であり、細菌感染症に対する薬である抗菌薬を使っても、風邪の治療はできない。

 日本で抗菌薬をもらうためには医師の処方せんが必要で、薬局で市販されている一般用医薬品(OTC)の「風邪薬」は抗菌薬ではなく、解熱鎮痛剤や鼻水を抑える薬など、対症療法が目的のものがほとんど。しかし、2024年7月に同センターが実施してまとめた「抗菌薬意識調査レポート2024」によると、「抗菌薬は風邪に効く」と誤解している人が39%で、「わからない」と回答した人(35%)を合わせ、74%が正しい知識を持っていなかった。

 「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づいた教育・啓発が推進されたことにより、風邪に対して医師から抗菌薬が処方される機会はかつてと比べて減ってきているという。しかし、患者の中には風邪に対して抗菌薬の処方を希望する人がおり、処方してしまう医師もいる。佐々木医師は、医師が患者とコミュニケーションや薬剤師との連携をしっかり取り、不必要な時に抗菌薬を服用するデメリットを丁寧に説明する必要があると指摘している。

気温が低く乾燥しているとウイルスが活発になり、屋内で換気が悪い空間にいる時間が増える冬は、風邪が流行する。佐々木医師は「私たちにできるAMR対策」として以下の3つを挙げ、医療従事者も一般の人も、それぞれが積極的にAMR対策に取り組んでいくことが、薬剤耐性菌の拡大を防ぐことにつながると呼び掛けている。

(1)抗菌薬を正しく使う:医療機関で風邪と診断されたときに抗菌薬を希望することをやめる。処方された抗菌薬は医師の指示を守り、適切に飲み切る。抗菌薬をとっておいたり、人にあげたり、もらったりすることはしない。

(2)感染対策:外から帰ったとき、トイレの後、食事前などはしっかり手洗いをする。せきやくしゃみが出るときは、マスクをして飛沫(ひまつ)が飛ばないようにする。マスクがない時は、ハンカチや袖の内側などで鼻と口を覆う。必要なワクチンを適切な時期に打つ。

(3)感染症を広げない:のどの痛み・せき・鼻水・発熱など感染症による症状 がある時は、外出を控えてゆっくり休む。