未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。今回は、弁当作りを通じて子どもたちを育てる「弁当の日」の提唱者・竹下和男(たけした・かずお)先生が、子どもの欲しいものがなんでも手に入る状況についてアドバイスします。
もらいすぎるプレゼント 物のありがたみが分からない?
【質問】
小学校4年生の娘がいます。12月にはお誕生日を迎えます。両親から誕生日プレゼントをあげていますが、それだけでなく両家の祖父母からも希望の物をプレゼントしていただいています。さらにそれだけでなく、12月はクリスマスもあり、ほどなく年明けにはお年玉ももらいます。親から見ると、娘はプレゼントなどをもらっても「うれしい」とか「ありがたい」という気持ちが希薄に見えます。もっと物の大切さを感じてほしいと思うのですが、上手な伝え方はあるでしょうか。
▼本当に与えるべきもの 親がそれを見極めて
【竹下和男先生の回答】
とてもいいところに気付いておられますね。思春期までに、欲しくても手に入らないものがあるけれどガマンするしかない、という経験をすることは、自制心や忍耐力の基礎づくりのために、とても大切なことです。欲しいもの三つのうち、やっと一つだけが手に入るのと、いつも三つとも与えてもらえるのとでは、その後の人生に大きな差がでます。加えて、欲しがってもいないのに与えてくれるという状況は、子どもにとって良くないことです。
さらに悪いことに、社会全体が豊かになり、孫の喜ぶ顔を見たい祖父母も、買い与えることをガマンできなくなっています。祖父母と孫がプレゼントで共依存(きょういぞん)の状態になっているようです。祖父母からのプレゼントに大喜びをすることで、孫は祖父母を喜ばせ、元気にしてあげているのです。でも頻度が多くなると、当然、子どもの感動も少なくなっていきます。子育てに大切なことは、今の笑顔より「未来のわが子の笑顔」をイメージすることです。大人は経験から子どもの未来を予測できますが、子どもはほとんど予測することができないからです。だからプレゼントに関しての主導権は大人側が持っていいのです。
プレゼントを与えすぎているかどうかは、子どもが教えてくれます。「うれしい」「ありがとう」の言葉に気持ちがこもっていないとか、すぐにプレゼントに飽きてしまうとかの反応です。それは「あんまり欲しくない物はプレゼントしてくれなくていいよ」という本音のサインを無意識に出してくれているのです。
まずは「何が欲しい?」とたずねないことです。熱心に欲しがっても、なかなかかなわなくて、やっと手に入れた物を、子どもは大切にするようになっていきます。このステップを通して、子ども自身が「本当に欲しいものは何か」に気づいていくのです。
親がわが子の気持ちをいかに分かろうとしていないかを伝えるために、フランスの作家サン・テグジュペリは、『星の王子さま』という本を書きました。親の気づきを願ったフレーズが多いのでお薦めの本です。「いちばんたいせつなことは、目に見えない」「子どもたちだけが、なにをさがしているのか、わかってるんだね」。
子どもには、本当に欲しいものを、言葉にして大人に伝える能力がまだ育っていません。よく観察して、いっぱい考えて、思いついた方法を試して、その後の反応・成長を見極めてください。そんなあなたの子どもへの心遣いこそ、わが子への最高のプレゼントだと思います。
竹下和男(たけした・かずお)/1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、東京農業大学、グリーン・シップ、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパンとともにさまざまな活動を行っています。