「トイ・ストーリー5」(7月3日公開)★★★
おもちゃを取り巻く“変化”を描く
持ち主の少女ボニーの成長を見守ってきたカウガール人形のジェシー。だが、タブレット端末「リリーパッド」の登場で、ボニーは画面の世界に夢中になり、おもちゃと遊ぶ時間を忘れてしまう。危機感を抱いたジェシーは、ウッディやバズと力を合わせ、ボニーの笑顔を取り戻そうと奮闘する。
ディズニー&ピクサーの人気シリーズ第5作。今回は、子どもとおもちゃの関係だけでなく、デジタルデバイスが子どもの遊びに与える影響という現代的なテーマに踏み込んでいる。主人公はウッディからジェシーに移り、物語の焦点も、これまでのようなおもちゃたちの心情だけでなく、子どもたちの気持ちへと広がった。おもちゃを取り巻く“変化”を描こうとする意欲は評価できる。だが、「3」がシリーズの理想的な完結編だっただけに、「4」とこの「5」は後日談の印象も否めない。新たなテーマへの挑戦は興味深いものの、シリーズとしての必然性については賛否が分かれそうだ。

「ヌーヴェルヴァーグ」(10日公開)★★★★
「勝手にしやがれ」誕生の舞台裏
1959年、若き映画批評家ジャン・リュック・ゴダールは、ジャン・ポール・ベルモンドとジーン・セバーグを主演に迎え、長編監督デビュー作「勝手にしやがれ」の撮影を開始する。だが、ゴダールの即興性を重視した型破りな演出に、スタッフやキャストは翻弄され、現場は混乱を極めていく。
リチャード・リンクレイター監督が、映画史を変えたヌーベルバーグ誕生の舞台裏を描いた一作。ゴダールのみならず、当時の映画人たちを生き生きと描き、映画が多くの才能の協働によって生まれる芸術であることを実感させる。モノクロ映像やフランス語主体の演出、「勝手にしやがれ」の名場面を細部まで再現した映像も見どころだ。さらに、ゴダールが映画や文学から数多くの引用を重ねながら、新たな映画表現を切り開いていく過程も興味深い。「勝手にしやがれ」への深い理解があってこそ成立する作品だが、映画製作の舞台裏を知る意味では、独立した作品としても楽しめる。

「ユースフル・ゴースト」(10日公開)★★★
妻の霊が掃除機に宿って…
深刻な大気汚染に見舞われるタイ・バンコク。呼吸器疾患で妻ナットを亡くしたマーチの前に、妻の霊が掃除機に宿って現れる。一方、母が経営する工場では、死亡した従業員の霊が機械に取りつき操業不能に。ナットは除霊に協力し、自らが“役に立つ幽霊”であることを証明しようと奮闘する。
車に霊が宿るホラー映画はあったが、本作はその対象を掃除機にした発想が実にユニークで、夫婦の愛情表現が周囲には「人が掃除機を抱いているように見える」というシュールな場面も笑いを誘う。タイの怪談「メー・ナーク・プラカノーン」を下敷きに、ホラー、コメディー、ロマンス、SFを自在に融合。さらに性的マイノリティーへの偏見、多様な愛の形、記憶と忘却、個人と社会の関係まで織り込み、奇抜な設定の奥に普遍的なテーマを内包させている。やや粗削りながら、欧米の映画にはない素朴さも印象に残る。2025年のカンヌ国際映画祭で批評家週間グランプリに輝いた。

「新凱旋門物語」(17日公開)★★★
巨大建築の創造者は誰なのか
1983年、フランス革命200周年記念事業として、ミッテラン大統領はパリに新たなモニュメント「新凱旋門(グラン・アルシュ)」の建設を計画する。国際設計コンペで選ばれたのは、無名のデンマーク人建築家ヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセン。だが、理想を貫こうとする彼は、予算や政治的圧力、周囲とのあつれきに悩まされ、次第に孤立していく。
実在の建築家の数奇な運命を描いた本作は、壮大な国家プロジェクトの舞台裏を描きながら、理想を追い求めるスプレッケルセンと、現実との折り合いを模索するフランス人建築家ポール・アンドリューの対立を軸にしたドラマとして展開する。スプレッケルセンには共感しにくいものの、その頑固さゆえに権力や組織に翻弄ほんろうされる建築家の悲哀は印象深い。完成した新凱旋門の姿をあえて映さない演出も象徴的で、巨大建築の創造者は一体誰なのか、そして誰のため、何のために造られるのかという本質的な問いを投げ掛ける。

「デッドマンズ・ワイヤー」(17日公開)★★★
70年代の実録映画へのオマージュ
1977年、不動産会社に財産をだまし取られたと思い込んだトニー・キリシスは、会社役員を人質に取り、自身と人質の首をショットガンとワイヤーでつないだ「デッドマンズ・ワイヤー」を仕掛けて立てこもる。警察が手を出せない中、現場からメディア出演まで行うトニーの行動は全米の注目を集め、世論は彼への非難と同情に二分されていく。
ガス・バン・サント監督が、米インディアナポリスで起きた実際の事件を映画化したクライムスリラー。犯人、警察、報道、そして視聴者という複数の視点から事件を描く構成は、「狼たちの午後」や「続・激突!/カージャック」といった70年代の映画をほうふつとさせる。その点で、「狼たちの午後」のアル・パチーノの出演も興味深い。劇中を彩る当時のヒット曲が時代の空気を巧みに再現し、俳優陣の緊張感あふれる演技も見応え十分。70年代の実録映画へのオマージュを現代的な映像感覚でよみがえらせた作品になっている。

(映画ライター 田中雄二)
★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価。







