2002年2月歌舞伎座「寺子屋」の松王丸一子小太郎で初舞台。以降、数々の歌舞伎公演のみならず、ドラマや情報番組、CMなどでも活躍する中村隼人。23年2月10日から開幕する、舞台「巌流島」では、佐々木小次郎を演じる。隼人にとって歌舞伎以外の大規模な舞台出演は本作が初。宮本武蔵役の横浜流星との共演について、公演への意気込みなどを聞いた。
-オファーを受けたときの心境は?
まず、驚きました。というのも、僕の大叔父である萬屋錦之介が1960年代に、(映画で)宮本武蔵役を5部作に分けて演じていたんです。なので、きっと歌舞伎界の方から見ると宮本武蔵は萬屋錦之介のイメージが強いと思います。そのときには、高倉健さんが佐々木小次郎を演じていたので、「僕が小次郎でいいの?」と(笑)。実際に、歌舞伎界の方には「錦之介さん、萬屋といったら武蔵なのに、隼人は小次郎か」という冗談も言っていただいています(笑)。そのぐらい印象が強かった役なのだと思いますが、そうした中で佐々木小次郎役のオファーを頂いたので、どうして自分を選んでいただいたのかを考えながらも、大きな挑戦をさせていただこうという思いで受けさせていただきました。
-本作は、新解釈で描かれる「巌流島」の物語ということですが、隼人さんがイメージしている小次郎はどんな人物ですか。
冷静で、腕に覚えがあって、門下生たちにも慕われていた、いわゆるいい上司像を体現する人物だったのかなと思います。ですが、巌流島の決闘では一撃で倒されてしまう(笑)。そんな印象です。きっと今回の脚本でも、そうした基本的な小次郎の印象は変わらないと思います。武蔵が“動”ならば、小次郎は“静”。そんな2人が出会い、同じ釜の飯を食べて相手の強さを知り、お互いに憧れとライバル心を抱く。そうした2人の関係がグラデーションのように描かれているので、決闘までの2人の感情が分かりやすいと思います。
-小次郎と似ているところはありますか。
すぐに熱くなって興奮してしまうところは似ています(笑)。それから、この作品での小次郎は、誰よりも強かったのに、初めて自分よりも強いと感じる武蔵と出会い、彼に憧れやジェラシーを抱きますが、そうした気持ちをうまく伝えられず、内に秘めている…というのは似ているところかもしれません。
-では、その武蔵を演じる横浜さんの印象は?
流星さんが出演されている映画やドラマを拝見させていただいていて、繊細な芝居をされる方だと思っていましたし、武骨というよりは柔らかな中性的なイメージを持っていました。ですが、今回、ビジュアル撮影で初めてお会いしたときに、ごあいさつをさせていただいた3分後には刀を合わせて(笑)、それもあって男くさくて線の太い役者さんだと感じました。イメージがガラッと変わりました。
-そんな横浜さんと、今回は舞台上でも刀を交えます。横浜さんも殺陣は得意だと思いますが。
世界一というぐらいお上手だと思います。流星さんは、本当に当たる距離感での殺陣を極められていると思いますが、僕は歌舞伎の様式美に特化した立ち回りをこれまでやってきました。そうした2人の違いがぶつかる殺陣になると思うので、きっと面白いものになるのではないでしょうか。刀の距離感や、どう見せていくのかは、これからの稽古で作り上げていきたいと思いますが、僕も楽しみです。
-小次郎と武蔵はライバル関係にありますが、隼人さんがライバルと聞いて思い浮かべる人はいますか。
ライバルといってもいろいろな関係があるとは思いますが、この作品の小次郎と武蔵でいえば、お互いに認め合い、高め合い、ある種、互いに引かれあっている関係性だと思います。男と男の精神的なつながりを持っているというような。そういう意味でいえば、尾上右近くんです。幼稚園の頃から一緒に過ごしている幼なじみで、一緒に駄菓子屋に行ったり、夢を語り合ったりした仲なので、彼が今、あれほど活躍している姿を見ると自分もと刺激を受けます。今回、この作品に出演することが決まったときも、最初に連絡をくれたのが右近くんです。お互いに認め合って、お互いのやっていることを尊重して応援できるといういい関係を築けていると思います。