映画『Winny』でファイル共有ソフトの開発者を熱演して高い評価を受け、2024年には狩猟生活を写したドキュメンタリー映画『WILL』の公開も控えている東出昌大。11月23日からは、まつもと市民芸術館プロデュース舞台「ハイ・ライフ」で4人芝居に挑む。4人のジャンキーたちが一獲千金を狙って銀行強盗を企てるという本作で、東出が演じるのは前科まみれのディック。東出に本作への意気込みや俳優としての現在の思いなどを聞いた。
-稽古真っただ中だと思いますが、手応えは感じていますか。
ポジティブな意味で、とても難しい芝居なので、こんなに芝居で悩んだのは近年まれだなと感じています。
-どんなところが難しいと感じているのですか。
もし仮に一つだけ挙げるとしたら、やっぱりせりふだと思います。翻訳劇の難しさですね。英語版も読みましたが、英語ではもっと言葉が短いんですよ。ただ、それを日本語に訳すときに、どうしても言い回しが長くなってしまい、テンポが損なわれてしまうところがある。原作の良さも引き出しながら、物語の疾走感を伝えなくてはいけない。せりふが全部、部品だとするならば、今はその部品の点検を一つ一つしている感じです。
-東出さんが演じるディックという役柄については、どう捉えていますか。
ジャンキーで、口八丁手八丁と台本には書かれていますが、同時に策士だなと思います。ただ、愚にもつかない連中の集まりなので、ディックもものすごい天才だとか、スーパーマンみたいだということは一切ない。俗物中の俗物という人物だと思います。
-そんなディックを演じるにあたって、どんなことを意識していますか。
記事にはとても書けないような言葉を常にまくし立てている男たちなので、そのリアリティーを出すことです(笑)。
-なるほど。いつも役作りはどのようにしているのですか。
作品によっても違いますが、僕は、例えばコンピューターのプログラマーの役ならば、まずプログラミングやテクノロジーの進捗(しんちょく)状況を勉強しますし、例えば舟の船頭の役ならば舟をこぐ練習をします。実際に勉強したり体験したりして役作りをしていくことが多いんです。ただ、今回は、役作りだからといって違法薬物を打つわけにはいかないので、想像して作っているところがあります。今はあらゆる映像をネット上で見ることもできるので、そうした映像を参考にもしています。
-東出さんが感じている本作の魅力は?
これほどまでに欲求に素直な4人の会話は、日本で生活していたら、見られないものだと思います。本当に記事にできないような内容が続く2時間なので(笑)。お客さまには非日常と、その中にあるおかしさを感じ取っていただけるのではないかなと思います。それがこの作品の魅力でもあり、見に来てくださった方にストレスを発散していただけるかなと思います。
-本作に出演したいと思ったのはどんな理由からだったのですか。
男4人芝居で、1カ月間、しっかりと稽古ができるのは楽しそうだなと思いました。くだらないことを話し続ける会話劇で、役者の技量が如実に問われる作品だとも感じました。絶対にできるという自信を持って受けた仕事ではなく、何としてでも食らい付いて、これを機に成長したいという気概で受けた仕事です。
-松本で滞在稽古(泊まり込んでの稽古)とうかがいました。現在(この取材時)は、関東近郊で稽古を行っていますが、この後、松本に入られるんですよね。そうした経験は初めてですか。
初めてです。なので、ものすごく楽しみです。欲を言えば、まるまる1カ月、松本で缶詰になりたかったくらいです。日本の役者はすごく時間のない中で稽古することが多い状況です。海外では、一つの作品を作り上げるのに何カ月も稽古をしてロングランで上演するということがザラにあるのですが、それに比べると、とにかく時間がない。ただ、今回は泊まり込んで稽古をするわけですから、寝食を共にしながら芝居のことに没入できるので、そういう意味では他の作品よりもさらに奥に踏み込めるのではないかという期待があります。