-そんな希は、加奈子やコンビニで一緒に働く仲間と交流する中で、徐々に変わっていきます。
物語が進むにつれ、実は日常の中でも近しい人たちに恵まれていたことに、希はだんだん気付いていくんです。その点、演じる上では突然大きく変わるわけではないんですけど、グラデーションをつけるように、徐々に変わっていく感じを心掛けました。
-そして後半、親しくなった加奈子から「飯塚さんは、いろいろ大丈夫?」と聞かれた希が、それまでため込んでいた思いを告白するシーンがとても印象的でした。唐田さんも自然と涙がこぼれてきて。
私にとってもすごく印象的なシーンで、あの時間のことは今もよく覚えています。元々、脚本ではああいうテンション感になる予定ではなく、さらっと終わるはずだったんです。でも、私も芋生さんもお互いに役であると同時に自分たちでもある感じだったので、芋生さんからああいう言葉をもらったとき、私自身も感極まるものがあって…。その結果、あんなふうになりました。希としても、そっと背中を押して、包み込んでもらえた時間だったなと思います。
-加奈子から「大丈夫?」という言葉をかけてもらった希の感情が溢れ出す流れもリアルなので、観客の共感を呼びそうな気がします。
根本的に人って、すごく弱いと思いますし、誰もが悩みやコンプレックスを抱えながら生きていると思うんです。でも、同じくらい強さも持っているんじゃないかな…と。だから、その後の「そんなに正しくなんて生きられないよ、みんな」という加奈子のセリフもすごく響くんですよね。
-そういうお芝居を引き出してくれた石橋監督の現場はいかがでしたか。
石橋監督は、役の心情に寄り添いながら演出してくださった上に、「ああしてください」、「こうしてください」ということはなく、基本的にお芝居については任せてくださいました。しかも今回の石橋組は、スタッフ、キャスト共に皆さんとても柔らかい雰囲気で、温度感の似た方が多かったんです。だから、役作りのために意識してコミュニケーションをとる必要もなく、自然といい関係を築けたことが、作品にも反映されたような気がします。
-では、完成した作品をご自身でご覧になった感想は?
脚本がより優しく色づいたような気がしました。石橋監督の優しい目線や芋生さんのたたずまいもすてきで、この世界観に入れてよかったな…と。10代の頃から親しかった芋生さんと初めて一緒にお芝居ができましたし、石橋監督ともいいチームになることができました。すごくいい空気感の中でお芝居をさせていただき、自分にとっては宝物のような作品になりました。
-この映画をどんな方にご覧になってほしいですか。
すてきな言葉がたくさん詰まっていて、ご覧になった方の背中をそっと押してくれるような作品になったと思います。そういう意味では、悩みを抱えた人や日常に疲れた人に見ていただきたいという思いはもちろんあります。とはいえ、そんなふうに構えることなく、ふらっと映画館に立ち寄った方にもぜひご覧いただき、何かを感じてもらえたら。1人でも多くの方に、非日常を味わえる映画の魅力を体感していただけたらうれしいです。
(取材・文・写真/井上健一)