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「甲斐監督の心の中にある世界観を、1人でも多くの人と共有したい」永瀬正敏『徒花 Adabana』【インタビュー】

-今回は、ポスターなどの写真を撮るカメラマンとしても参加したんですよね。どんな気持ちでしたか。

 めちゃくちゃうれしかったです。以前、行定勲監督の作品でポスターと写真集を作るというので写真を撮ったことがありました。その後、正式にカメラマンとしてオファーを頂いた作品があったんですけど、その作品の監督がお亡くなりになってしまって実現しなかったんです。なので、今回はもうとてもうれしくて。俳優としてよりもカメラマンとして参加した日数の方が多いぐらいでした。監督が書かれた映画のイメージ画を最初に見せていただいて、じっくりお話を聞かせていただいたのは非常にうれしかったです。そこから受け取るものはとても多かったですし、すごく助けられながら写真を撮らせてもらいました。

-永瀬さんの中で、カメラマンというのは俳優とまた違った意味での表現方法として大きなものなのですか。

 とても大きいです。もともとは祖父が写真館をやっていたんです。写真館のカメラマンなので写真家ではなく、写真師なんですが。ある時、祖父が書いた写真に関する研究ノートや種板って言うんですけど、ガラスに焼き付けたネガがいっぱい出てきて…。もし戦争や戦後の混乱がなかったら、祖父はちゃんと写真をやりたかったんだろうなということに気付きました。祖父が真剣に写真と向き合っていたことを知ってから、より人物が撮りたくなりました。だから、僕が撮るというよりも、祖父と一緒にシャッターを切っているような感覚なんです。写真を撮る時は、常に祖父が守ってくれているような気がします。

-今回の写真に込めた意図というか、どういうコンセプトでしたか。

 少し早めに入ってロケハンをさせてもらった時に、ここで撮影をするという場所のガラスの映り込みがすごく良かったんです。それで、外の景色が顔や体にかかったりする映り込みによって表現できる二面性、“自分とソレ”という関係性が表せるんじゃないかと、この映画のテーマとつながると思って撮らせてもらいました。他にもいろいろ撮りましたが、その中の1つをデザイナーさんに選んでいただいたということです。

-完成作を見た印象は?

 まずは多くの方に見ていただきたいと思いました。そして欲張りですが、監督の次の作品も見たくなりました。音楽も美術も衣装も、ヘアメークも含めて細部にこだわって妥協されてない。それがこの作品の中できちんと結実して主題を表す一部になっている、やっぱりすごいなと思いました。甲斐監督の心の中にある世界観を、1人でも多くの人と共有したいという思いがあるので、どんどん広がっていってほしいですし、すぐにでも次の新作に入ってほしいです。

-そうしたら、声だけでもいいからまた出るんですよね。

 もちろんです。お声を掛けていただければ喜んでうかがいますし、写真だけだと言われても喜んで(笑)。

-最後に読者に向けて、見どころも含めて、永瀬さんなりのアピールを。

 新くんと水原さんがすごいチャレンジをしている作品ですし、監督が言いたいいろんなテーマがこの作品の中に含まれているので、それを受け取っていただけるんじゃないかと思います。監督が最初のアイデアを考えたのは随分前で、その後、少子化問題やパンデミックがあって、そうしたいろんなものを含めての今という意味では、先見の明があった作品でもあると思います。まずは劇場に来ていただいて、体感していただきたいと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)

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