はばたけラボのアドバイザーでもある「弁当の日」提唱者の竹下和男氏と、ジャズピアニスト・数学教育者でSTEAM教育を推進する中島さち子氏が、弁当作りとSTEAM教育の共通点や、未来世代を担う子どもたちがワクワクした人生を送るために大切なことを語り合ったものを、連載でお届けする。
第1回は、弁当作りとSTEAM教育の重要性について。
―STEAM(Science・Technology・Engineering・Mathematics)に加え、芸術・文化・生活・経済・法律・政治・倫理等を含めた広い範囲で「A:Arts」を定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習が「STEAM教育」。中島さんはSTEAM教育を推進されています。STEAM教育の重要性をどのように感じられていますか?
中島 海外でSTEAM教育は、各分野を組み合わせることで新たな未来を作っていけるというような、ワクワクする楽しいニュアンスとしてとらえられています。私自身は数学や音楽が好きなのですが、自分があまり知らなかった建築やプログラミングの分野なども面白そうだなと。STEMに加え、アートが含まれている「STEAM」の考え方が日本でも広まって、皆が楽しく学びや遊びに向き合えるようになったらいいなと思い、STEAM教育を推進するようになりました。
竹下 私は小学校と中学校で教員していましたが、「ワクワクする時間を公教育の中でどのように作っていくか」という思いで、献立から片付けまでの全部の弁当作りに一人で取り組む「弁当の日」をスタートし、23年目になりました。「1人で取り組む弁当作り」は、五感を育てること、数学的な物の見方、化学、歴史のほか、郷土料理などにも多様につながっていきます。「弁当の日」に取り組んだ子どもたちが親になり、今、自分の子どもを台所に立たせている。STEAM教育については存じ上げなかったのですが、調べ始めたら、もうびっくり。こんなに素敵な理論で、しかも博学的にいろいろ分野の学問を知ることが、ワクワクにつながっていくんだと。それが嬉しくて、今日はいろいろなお話を聞きたくてワクワクしています。
中島 お弁当とSTEAM教育のコラボレーション。STEAM教育でも五感を使ってさまざまな体験をしたり、"遊び"を大事にしたりすることが重視されています。お弁当も自分で作って片付けまですることの中には、科学・化学・数学も入っているし、プログラミング的思考も入って、面白いですね。竹下先生の取り組まれていることは、正にSTEAM教育だなと思います。自分で考えて動いて失敗して、またやり直して、という力は大事ですね。
竹下 私が中学校で「弁当の日」を提案した時に、即返ってきたのは、「弁当を作れば高校に受かるのか」という生徒や親の声でした。でも例えば、大根をスライサーで薄く切っているうちに自分の手を切ってしまう中学生がいたのですが、スライサーを使うと段々大根が擦り切れ、自分の指の順番が来るということが分からない子がいるということ。結局それは体験してないからですね。中島さんの活動を見てみると、いろいろな高校と連携しながら、万歩計を生徒たちが自分で作ってみて、たくさん歩いて何を感じ取ったのかを考えるという取り組みなどをされている。素晴らしいと思いました。
竹下和男 「子どもが作る弁当の日」提唱者 小学 校、中学校教員、教育行政職を経て 2001 年度より綾南町立滝宮小学校校 長として「弁当の日」を始める。
中島さち子 株式会社 steAm 代表取締役社長 ジャズピアニスト、数学研究者、STEAM教育者など多方面で活躍。大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーも務める。