8月も終わりを迎えますが、まだまだ高温多湿な毎日が続いています。屋外のイベントや海水浴、バーベキュー、川遊びなど、夏をアクティブに楽しんだ方も、残暑の疲れが出てきているのではないでしょうか。そんなときは、ゆったりと温泉で過ごすのも良いですよね。
今回は、鹿児島県指宿市にある「鰻(うなぎ)温泉 民宿うなぎ湖畔」をご紹介します。こちらは、風光明媚な鰻池の湖畔に立ち、穏やかに過ごすのにもってこいの素朴な温泉宿です。

鹿児島県の薩摩半島最南端に位置する指宿市。薩摩富士とも呼ばれる「開聞岳」や、砂蒸し風呂の指宿温泉が有名ですよね。海沿いに形成された指宿温泉は、多くの旅館やホテルが立ち並び、たくさんの観光客でにぎわっています。そんな温泉街から車で10分ほど山の方へ走ると雰囲気は一変。山の中に突然現れるカルデラ湖の鰻池、神秘的な景色が広がります。
さらに車を走らせると、今回ご紹介する鰻温泉の集落が見えてきます。昔ながらの住宅街のような温泉街は、数軒の民宿と共同浴場が点在する小さな温泉地。開湯は江戸時代で、明治初期には西郷隆盛が湯治をしたことでも知られています。
宿泊した「うなぎ湖畔」は、全8室の小さな民宿。飾らない木造の建物は、夏休みに親戚の家に帰ってきたかのような、ほっと安心できる素朴な風情です。


お風呂は、男女別の内湯と半混浴の露天風呂の2カ所あります。
木造の小屋にある内湯は、中心にコンクリート製の湯船が一つのみ、シンプルなタイル張りの床に素朴な木の天井が、湯治場の共同浴場を想わせます。壁に描かれた鹿児島名物の芋焼酎とカツオのイラストがかわいらしく、この雰囲気の中での入浴は、心までにぎやかになるような楽しい湯浴みでした。

鰻温泉エリアで唯一という露天風呂からは、おだやかな鰻池と山々、集落が望めます。日中の景色も素晴らしいですが、夕方はサンセット、夜は星空を眺められ、1日でいろいろな表情を楽しむことができます。
露天風呂は、全国的にも珍しい「半混浴」。脱衣所は男女別で、お風呂の真ん中が大きな壁で仕切られていますが、湯船の最奥で男女がつながる形をしています。そのため、混浴に抵抗のある方でも多少は敷居が低く、チャレンジしやすい混浴のスタイルです。

泉質は、単純温泉。80度を超える高温で湧く源泉を、加水のみの掛け流しで利用しています。湯色は無色透明で、成分由来の白と茶の湯の花がひらひら舞っています。あっさりとしたお湯で、やさしくツルツルと肌を包み込んでくれる心地よい肌触り。香りにもクセがなく、ほんのりミネラルを感じる硬水のような感じでした。湯上りは、体の芯まで温まりましたが、それよりもさっぱり爽快感の方が強かった印象です。
「民宿うなぎ湖畔」の食事は、高温で湧く源泉の蒸気を利用した「スメ料理」が名物です。
この日の夕食には、「スメ料理」の丸鶏蒸し、豚の軟骨の温泉蒸し、温泉蒸気の茶わん蒸しのほか、カツオのたたき、南蛮漬けなど、どれもメインを張れる料理が食卓に並びました。



丸鶏蒸しは、大きな1羽が丸ごとお皿に載り登場。漫画やアニメでしか見たことのないような、インパクトのあるビジュアルです。温泉の蒸気の影響か、うまみの凝縮されたお肉は、調味料を何もつけなくてもおいしくいただけます(岩塩、タレなどもあります)。肉質はとてもやわらかく、口に運ぶとホロホロ崩れるくらい。皮、モモ、ササミ、ムネ、手羽、ナンコツなど部位ごとの食感や味が違いも楽しめ、大満足でした。とはいっても、ボリュームがすご過ぎて夕食では食べきれず、3分の1ほど残してしまいました(残りは朝食で出していただき完食しました)。注文される場合は、覚悟が必要かもしれませんね。

海水浴、登山、バーベキュー、温泉などなど、夏のアクティビティーをこれでもかと楽しめる指宿。街は多くの観光客でにぎわっていますが、鰻温泉まで足を延ばせば、そんな喧騒(けんそう)から一線を画す、穏やかな空気が漂っています。
夏を遊び尽くしたという方は、そろそろ暑さに疲れた頃ではありませんか。少しゆっくりできる温泉地で、お腹いっぱいおいしいものを食べて、じっくり温泉に向き合う旅で英気を養うのも良い時間ではないでしょうか。
【鰻温泉 民宿うなぎ湖畔】
住所 鹿児島県指宿市山川成川6526
電話番号 0993-34-1954
【泉質】
単純温泉(低張性 中性 高温泉)/泉温81.6度/pH:5.9/湧出状況:-/湧出量:-/加水:あり/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆掛け流し
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)