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なぜ今、チャップリンなのか? 答えを探しに2月10日から始まる「チャールズ・チャップリン映画祭」に行こう!

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 日本チャップリン協会会長の大野裕之さんは問いかける。
 「なぜ今、チャップリンなのでしょうか?」

 「ウクライナのゼレンスキー大統領は『新たなチャップリンが必要だ』と訴え、レディ・ガガはコロナ禍にあえぐ人々に向けて、『モダン・タイムス』の曲『スマイル』を歌いました。日本では東日本大震災の後、動画サイトのチャップリンの再生回数が数十倍になりました。なぜチャップリンは、私たちが困難にあるとき、いつもそばにいてくれるのでしょうか?」

 「それは『キッド』の親子の情愛にいつも微笑みと涙がこぼれてしまうからでしょうか? それとも、『モダン・タイムス』の痛烈な機械文明批判が現代に生きる私たちの胸を刺すからでしょうか? 『黄金狂時代』の究極の身体芸に圧倒され、『サーカス』の綱渡りのスリルに人生で一番爆笑してしまうからでしょうか? あるいは、『巴里の女性』の映像表現の斬新さに、『殺人狂時代』の冷たくスタイリッシュな演出に、『ニューヨークの王様』の老いてもなお熱くシャープな視点に感嘆するからでしょうか?」

 「でも残念なことにどれだけの賛辞を重ねても、チャップリンの偉大さを語りうる言葉は見つかりません。だから、ぜひとも今回の上映で目撃してほしいのです」

 「『街の灯』のボクシングの爆笑の後、ラストシーンに奔流(ほんりゅう)する残酷なまでに美しい愛を。『独裁者』でヒトラーにたった一人で立ち向かった人類史に残る決死の闘いを。『ライムライト』の主人公カルヴェロの瞳に深く映る、人の生と死の悲哀を。私たちを笑いで勇気づけ、私たちと一緒に泣いてくれる、あのちっぽけな放浪者の姿を。世界を以前よりも楽しい場所に変えてくれた永遠のフォーエバー・チャップリンを!」

 そして再び大野さんは問いかけるのだ。
 「なぜ今、チャップリンなのか――世界が混迷にある今こそ、私たちにはどうしてもチャップリンのユーモアが必要なのです!」

 「フォーエバー・チャップリン チャールズ・チャップリン映画祭」は2月10日(金)から3月2日(木)までアップリンク吉祥寺(東京都武蔵野市本町1-5-1パルコ地下2階)で開催される。料金は、一般1600円、シニア(60才以上)1300円、ユース(19才~22才)1100円、アンダー18(16才~18才)1000円、ジュニア(15才以下)800円。

 上映作品は以下の通り。

 〇『キッド』(1921年/アメリカ/53分/モノクロ/原題:THE KID)
 「ほほえみと、おそらくは一粒の涙の映画」という冒頭字幕の通り、爆笑の後にほろりとさせられる初期の代表作。チャップリンと愛くるしい名子役ジャッキー・クーガンの名コンビで、血のつながりを超えた親子の絆をユーモアと愛情たっぷりに描き上げた。極貧のなか、何度も孤児院に入れられたチャップリンの幼少時代の経験が反映された本作は、史上初めて世界中で大ヒットした映画となり、文字通り全世界を笑いと涙に包んだ。

 〇『巴里の女性』(1923年/アメリカ/81分/モノクロ/原題:A WOMAN OF PARIS)
 喜劇王チャップリンが初めて手がけたシリアス・ドラマにして、長年のヒロインだったエドナ・バーヴァイアンスに捧げた<運命のドラマ>。監督に徹したチャップリンは映画作家としての天才を遺憾なく発揮し、サイレント映画の<光と影>の表現だけで、すれ違う男女の心の機微を描き切った。後の監督たちに多大な影響を与えた、映像の美を極めた名品。

 〇『黄金狂時代』(1925年・1942年/アメリカ/72分/モノクロ/原題:THE GOLD RUSH)
 厳しい自然を前にした人間の無力さ、黄金を求める欲望、飢えとの闘い、そして憧れの女性への恋…白い雪山を背景に人間そのものを浮き彫りにして描いた傑作。空腹に耐えかねて靴を食べるシーンや、ロールパンのダンス、断崖絶壁で揺れる山小屋など、映画史上に輝く名場面の連続! 喜劇王チャップリンの至芸で紡ぐ、喜劇と悲劇を超えた壮大な人間ドラマ!

 〇『サーカス』(1928年/アメリカ/72分/モノクロ/原題:THE CIRCUS)
 これぞチャップリンのパントマイム芸の真骨頂! ライオンのおりに閉じ込められるシーンから、高所での綱渡りシーンまで、命がけのギャグはすべてスタント・特撮なし、身体を張った名人芸! チャップリン作品随一の爆笑作にして、愛する人のために奮闘し身を引くチャーリーのほろ苦い哀愁も描く。第一回アカデミー賞特別賞を受賞した、スラップスティック喜劇の集大成。

 〇『街の灯』(1931年/アメリカ/86分/モノクロ/原題:CITY LIGHTS)
 チャップリンは、本作の製作に3年もの月日をかけ、笑いと涙、そして冷徹な社会批評を残酷なまでに美しい愛の物語に盛り込んだ。爆笑のボクシング・シーンなど名シーンの連続に、チャップリン自身が作曲した美しい音楽。そして、映画史上もっとも感動的といわれる、あのラストシーン。もはや、どんな言葉も必要ない。チャップリンのすべてがここにある。

 〇『モダン・タイムス』(1936年/アメリカ/87分/モノクロ/原題:MODERN TIMES)
 1936年の時点で、機械文明の非人間性を予言した問題作にして、チャップリン映画のなかでも最高におかしい傑作コメディー。チャーリーが巨大な歯車に巻き込まれる象徴的なシーン、輝くばかりに美しいポーレット・ゴダード、チャップリンが初めて肉声を聞かせた「ティティナ」の歌、そしてチャップリン作曲の名曲「スマイル」に乗せて、二人が歩き去っていく伝説的なラストシーン。現代社会の不条理のなかでも、あくまでも自由を求め希望を胸に放浪する、チャップリンの代表作!

 〇『独裁者』(1940年/アメリカ/125分/モノクロ/原題:THE GREAT DICTATOR)
 世界でもっとも愛された喜劇王ともっとも憎まれた独裁者は、わずか4日違いで生まれた。本作は、ヒトラーの全盛期に、チャップリンが笑いを武器に真っ向から立ち向かった問題作。狂気につかれた独裁者が地球儀と戯れるダンスシーンや床屋のひげそりの爆笑シーンなど、映画史に残る数々の名場面! 自由と平和を呼びかけるラストの感動の演説は、時代を超えて今も響き渡る。

 〇『殺人狂時代』(1947年/アメリカ/124分/モノクロ/原題:MONSIEUR VERDOUX)
 戦争による大量殺人を告発したブラック・コメディーにして、放浪紳士の扮装(ふんそう)を脱ぎ捨てて洗練された紳士を演じた異色作。当時、戦勝に湧くアメリカでは猛烈なバッシングを受け、チャップリンはその後事実上国外追放される憂き目にあう。だが、本作は、現代への警鐘ともいえる痛烈な反戦メッセージもさることながら、新境地を開いたチャップリンのスタイリッシュなユーモアと洗練を極めた名演出が堪能できる傑作コメディーだ。

 〇『ライムライト』(1952年/アメリカ/138分/モノクロ/原題:LIMELIGHT)
 チャップリンの原点であるロンドンの大衆演劇を舞台に、無償の愛を描いた名作。「人生に必要なのは、勇気と想像力…そして少しのお金」をはじめ名台詞の数々、無声映画時代のライバル、バスター・キートンとの共演で見せる至芸、そして誰もが涙する感動のラストシーンまで、まさにチャップリンの映画人生の集大成だ。のちにポップソングとしても大ヒットした「テリーのテーマ」などチャップリン作曲の映画音楽は、アカデミー賞作曲賞を受賞した。

 〇『ニューヨークの王様』(1957年/イギリス/105分/モノクロ/原題:A KING IN NEW YORK)
 戦勝に沸くアメリカ政府は、「平和の扇動者」たるチャップリンを事実上、国外追放にした。本作は、チャップリンから「不自由の国」アメリカへの抱腹絶倒のしっぺ返しだ。大御所の地位に安住することなく、67才にして軽やかにギャグを繰り出し、現代文明の不条理を鋭く風刺! 名匠ロッセリーニ監督は「これぞ自由人の映画」と絶賛した。息子のマイケルが悲劇のルパート少年を好演!

 チャップリンは1889年4月16日、ロンドンで芸人の両親のもとに生まれ、舞台上で突然声が出なくなった母の代わりに5才で初舞台。英国随一のカーノー劇団に入団し、一躍看板役者に。その後、アメリカに渡って、1914年に映画デビュー。笑いだけでなく弱者の視点から人間の哀愁も描いた作風で、デビュー3年後には世界最高のサラリーを稼ぐほどの大スターとなった。

 1918年には自身のスタジオを設立して独立。以降、一作ごとに数年かける完璧主義で世界の興行記録を塗り替える大ヒット作を次々と生み出した。戦後は平和思想のためにアメリカを追われるが、1972年にはアカデミー賞特別賞を受賞。75年にはイギリス女王からナイトに叙され、栄誉に満ちた晩年を過ごした。