社会

農業、観光、大学が組み新価値創造 多摩大でまちづくりシンポ

多摩大湘南キャンパスで開かれたシンポジウム
多摩大湘南キャンパスで開かれたシンポジウム

 東京都と神奈川県を結ぶ小田急電鉄と沿線の3大学が、地域特有の魅力や課題を共有・発信するリレーシンポジウム「Odakyu Innovation Roots」の第1回が2月7日、多摩大湘南キャンパス(神奈川県藤沢市)で開かれた。企業、自治体、大学がつながり、魅力的なエリアをつくりあげるための根源(Roots)にしようという狙い。第1回のタイトルは「『農業・食』×『観光』×『大学』~藤沢北部から考える新たな価値創造とその可能性」。会場とオンライン合わせて200人余りが参加した。

 ガストロノミーの満足度98%

 まず、小田急電鉄経営戦略部の西村潤也課長が「小田急線は町田、厚木、藤沢など主要な宿場町をつないでいるのが特徴。住む、働く、遊ぶ、食事する、が完結しているエリアの価値を、企業、大学、住民のみなさまとともに高めていこうと取り組んでいる」とシンポ開催の趣旨を説明した。

 多摩大グローバルスタディーズ学部の韓準祐・准教授は、神奈川県中南部に位置し人口約44万3000人の藤沢市のうち、同学部がある市北部について「高齢化や農業従事者の減少、荒廃農地の発生などが指摘されている。里山、田園風景が広がる魅力的なエリアだが、観光資源化するまで至っていない」と抱えている課題を提示した。

 国家戦略特区の制度を活用し農地で農家レストランを経営する農業法人いぶきの企画・運営責任者、里崇さんは「都市近郊は農地が狭くオートメーション化できないので不利だが、年間1000人ぐらい参加する農業体験イベントにより高収益化を実現できた」と述べた。さらに生ごみから作ったコンポスト(堆肥)を家庭から回収し、代わりに野菜を提供することで、住民と農家のつながりができ「生ごみを土に返す新しい文化を作っている」と、農業活性化や地球環境改善につながる成果を挙げた。

都市近郊の農業の課題について講演する里崇さん
都市近郊の農業の課題について講演する里崇さん

 その土地ならではの食文化や自然を楽しむ旅「ガストロノミー」を紹介したのは、ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構の溝田祐一郎ディレクター。2019年に鳥取県湯梨浜町で行われたイベントで、参加者が湖畔の約9キロをウオーキングしながら地元の食材を楽しみ、温泉でくつろぐ様子を映像で披露した。ガストロノミーは「観光資源が乏しい地域でも始められる。差別化が可能。新しい価値観や体験を与えられる」などの特徴があり、この6年間に全国60カ所で計130回開催されたという。

 そのうちの一つで、2021年10月に藤沢市で100人が参加して開催されたウオーキングについて、ONSENガストロノミーふじさわパートナーズの伊藤浩介実行委員長が「『ココロもカラダもほっと落ち着く湘南藤沢』をキャッチフレーズに、主に学生さんが企画を立てて展開した。参加者の満足度は98%だった」と振り返った。開催後も草刈りや祭りの手伝いなどで地元住民とのつながりが続いているという。

 まちづくりに取り組むUDSの三浦宗晃ゼネラルマネジャーは、小田急湘南台駅前につくった150人収容の学生寮「NODE GROWTH 湘南台」を紹介。1階の食堂は地域住民も利用でき、定期的に地元の食材を使うなどして「食をテーマに地域を活性化し、学生の成長にもつながれば」と抱負を語った。

 課題解決に貢献、学生も成長

 産官学民の連携で進められているこれらの活動を、韓准教授は「地域の課題解決に貢献する、そして活動に関わる学生の成長を促す、その両方と捉え大事に考えている」と説明する。多摩大グローバルスタディーズ学部では、あらかじめ登録した学生にさまざまな地域活動をメールで案内し、教職員がサポートする仕組みを設けているという。その具体例が、観光協会から委託された外国人観光客アンケートや、飲食店、土産物店の多言語化、ガストロノミーウオーキングなどだ。韓准教授は「活動を通じ、学生同士や教職員とのつながりが非常に強くなっている。学生は地域社会への理解を深め、語学力やコミュニケーション能力、実行力、企画力の向上が確認できた」と、活動の手応えを強調する。

シンポジウムの企画、運営に当たった公保綾太さん(左)と佐々口珠莉さん
シンポジウムの企画、運営に当たった公保綾太さん(左)と佐々口珠莉さん

 2時間余りのシンポを終え、2021年11月ごろから準備に携わってきた多摩大経営情報学部4年の佐々口珠莉さんは「地域を盛り上げるため、どのような取り組みがなされているか、多くの人に伝えられ、シンポの目標は達成できたと思う」と、ホッとした様子。ゼミでは「つなぐ力」をテーマに企業や自治体とのプロジェクトを進める機会は多かったが、シンポの企画では「社会人と話すのに慣れておらず、私たちの考えをうまくアウトプットできず、スムーズに伝えるのが難しかった」と振り返る。同学部2年の公保綾太さんは、電子メールの本格的なやり取りは初めてで「(書き方など)基礎的なことも知らず、最初は全くできなかった」と反省しつつ、次回のシンポに向け、発表の時間配分の見直しなど、課題の洗い出しをさっそく始めた。

 佐々口さんはこの春、横浜市役所への就職が内定しており「今回の経験を生かし即戦力になれるよう頑張りたい」。来年のシンポを託された形の公保さんは「これまでは先輩任せだったけど、これからは引っ張る存在になり、後輩へとつなげなければ」と気を引き締めていた。

 第2回シンポは2月27日に相模女子大が担当でテーマは「『おもてなし』×『DX』×『地域』~本当の観光人材を育成する新たな地域価値創造」、第3回は3月23日の東海大で「スポーツとシティズンシップ~スポーツの中の社会、社会の中のスポーツ」。ともにオンライン配信のみで定員各400人。参加は無料で、申し込みは多摩大総合研究所の特設サイトから。

シンポジウム登壇者と運営スタッフ
シンポジウム登壇者と運営スタッフ