カルチャー

フランス北西部の特異な文化を愛した画家たち 「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」

「憧憬の地 ブルターニュ」チラシ

 フランス北西部、大西洋に突き出た半島を核とするブルターニュ地方は古来より特異な文化を紡いできた。この度、この地を愛した画家たちの作品が集うことになった!

 断崖の連なる海岸や岩が覆う荒野、内陸部の深い森をはじめとする豊かな自然、カルナック列石など各地に残された古代の巨石遺構や中近世のキリスト教モニュメント、そしてケルト系言語「ブルトン語」を話す人々の素朴で信心深い生活様式――。

 このフランスの内なる「異郷」は、ロマン主義の時代を迎えると注目を集め、新たな画題を求める芸術家たちがやって来た。以来、ブルターニュは流派や国籍を問わずに幅広い画家たちを受け入れることとなった。そして、19世紀末にはポール・ゴーガンを取り巻くポン=タベン派やナビ派といった美術史の上で重要な画家グループの誕生を促した。

 3月18日(土)から6月11日(日)まで国立西洋美術館(東京・上野公園)で開催される「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」では、とりわけ多くの画家たちがこの地に引きつけられた19世紀後半から20世紀はじめに着目し、この地の風景や歴史をモチーフとした作品を一堂に紹介する。

 また、フランスを中心とする西洋画家のみならず、明治後期および大正期にかけて渡仏し、ブルターニュにまで足を延ばした日本出身画家たちの足跡と作品にも光を当てる。

 会場には国内の30を超える所蔵先と海外2館から集められた約160点の絵画や素描、版画、ポスター作品に加え、文学作品などの関連資料も展示される。

 〇第1章「見出されたブルターニュ:異郷への旅」——ブルターニュ地方が画家たちを引きつけはじめたのは、19世紀初めのロマン主義の時代。イギリスの風景画家ウィリアム・ターナーの水彩画やフランスの画家・版画家が手がけた豪華挿絵本など、19世紀初めの「ピクチャレスク・ツアー(絵になる風景を地方に探す旅)」を背景に生まれた作品から紹介していく。ウジェーヌ・ブーダンやクロード・モネら、旅する印象派世代の画家たちがとらえたブルターニュ各地の表情豊かな風景を前に、自然と向き合う画家たちの真摯(しんし)な眼差しを感じ取れるのではないだろうか。

ウィリアム・ターナー 《ナント》 1829年 水彩 30x44cm ブルターニュ大公城 ナント歴史博物館
ウィリアム・ターナー 《ナント》 1829年 水彩 30x44cm ブルターニュ大公城 ナント歴史博物館
クロード・モネ 《ポール=ドモワの洞窟》 1886年 油彩 カンヴァス 65x83cm 茨城県近代博物館
クロード・モネ 《ポール=ドモワの洞窟》 1886年 油彩 カンヴァス 65x83cm 茨城県近代博物館

 〇第2章「風土にはぐくまれる感性:ゴーガン、ポン=タベン派と土地の精神」——ブルターニュ地方南西部の小村ポン=タベンは画趣に富む風景。古い建造物や民族衣装を着た人々といった豊富なモチーフのみならず、滞在費やモデル代の安さも手伝って多くの画家を魅了し、早くも1860年代にはアメリカやイギリス、北欧出身画家たちのコロニーが形成されていた。1886年、パリでの生活苦から逃れるようにポン=タベンへ赴いたゴーガンはこの地を気に入り、1894年までブルターニュ滞在を繰り返して制作に取り組む。ゴーガンと彼を取り巻くポン=タベン派の画家たちは、単純化したフォルムと色彩を用いて現実の世界と内面的なイメージとを画面上で統合させる「綜合主義」を展開。ゴーガンが度重なるブルターニュ滞在中に制作した作品12点(絵画10点、版画2点)によって造形表現の変遷をたどる。実験的な創作活動の場としてのブルターニュを見てもらいたい。

 〇第3章「土地に根を下ろす:ブルターニュを見つめ続けた画家たち」——19世紀末から20世紀初頭にかけ、ブルターニュは保養地としても注目されるようになる。画家たちのなかにも避暑のみならず制作のため、パリやその近郊の住まいとブルターニュの往来の末に別荘を構えてこの地を「第二の故郷」とし、絶え間なくこの地を着想の源とした者がいた。世紀末のジャポニスムをけん引した版画家アンリ・リヴィエールが描く穏やかな海、民衆が農作業にいそしむ牧歌的風景には、彼が夢見たであろうもうひとつの「異郷」たる日本のイメージが投影されているかのよう。あつい信仰に根ざすブルターニュの精神に共鳴したナビ派の画家モーリス・ドニは、この地で過ごす家族の姿を宗教的文脈のうちに描き、また海岸を古代ギリシャの海に見立てるなど、現実と幻視が共存する地上の楽園のイメージを創出した。

アンリ・リヴィエール 連作『ブルターニュ風景』より《ロネイ湾(ロギヴィ)》 1891年 多色刷り木版 225x349mm 国立西洋美術館
アンリ・リヴィエール 連作『ブルターニュ風景』より《ロネイ湾(ロギヴィ)》 1891年 多色刷り木版 225x349mm 国立西洋美術館
モーリス・ドニ 《花飾りの船》 1921年 油彩 カンヴァス 88.3x113.3cm 愛知県美術館
モーリス・ドニ 《花飾りの船》 1921年 油彩 カンヴァス 88.3×113.3cm 愛知県美術館

 〇第4章「日本発、パリ経由、ブルターニュ行:日本出身画家たちのまなざし」——ブルターニュ地方が西洋絵画の主題として定着し、多様な表現の受け皿となっていた19世紀末から20世紀のはじめ、つまり日本における明治後期から大正期にかけて、芸術先進都市パリに留学していた日本人画家・版画家たちもブルターニュという「異郷のなかの異郷」へと足を延ばし、その風景や風俗を画題に作品を制作していた。これまであまり注目されてこなかった彼らのブルターニュ滞在に光を当てる。黒田清輝や久米桂一郎を筆頭に、山本鼎や藤田嗣治、岡鹿之助らが描いたブルターニュの風景や風俗を見ることができる。

黒田清輝 《ブレハの少女》 1891年 油彩 カンヴァス 80.6x54.0cm 石橋財団アーティゾン美術館
黒田清輝 《ブレハの少女》 1891年 油彩 カンヴァス 80.6×54.0cm 石橋財団アーティゾン美術館

 開館時間は午前9時半から午後5時半(毎週金・土曜日は午後8時まで)。入館は閉館の30分前まで。ただし、5月1日(月)、2日(火)、3日(水・祝)、4日(木・祝)は午後8時まで開館。休館日は月曜日(3月27日、5月1日を除く)。観覧料金は税込みで一般2100円、大学生1500円、高校生1100円、中学生以下無料。問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)か展覧会公式サイトまで。