未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。今回は、弁当作りを通じて子どもたちを育てる「弁当の日」の提唱者・竹下和男(たけした・かずお)先生が、小学生の保護者からの質問に答えます。
子どもたちがマスクをつけるのをやめません。どうしたらいいですか
【質問】
小学3年生(9歳)の息子と、1年生(6歳)の娘がいます。文部科学省から、4月からは「学校教育活動で児童・先生にマスクの着用を求めない」という指導が学校に対して出されたと聞いていましたが、2人ともマスクをして登校しています。様子を聞いたら、ほとんどの子どもがマスクを着用して授業を受けていて、先生も同様だそうです。「外したらどう?」と声を掛けても、本人たちは「顔を見られるのが恥ずかしい」「みんながしているから目立ちたくない」と言っています。健康のためにもマスクを外すように指導してほしいと、学校にお願いに行くべきでしょうか。
コロナ禍以前を覚えていないから戻る場所が分からない。軽く背中を押してみて
【竹下和男先生の回答】
コロナ禍は4年目になっています。二人のお子さんは、年齢的には社会にうまく適応できる人格の基礎形成期に当たります。適応力は子どもが環境からの情報を獲得し、認識し、分析し、行動でチェックし、改善しながら少しずつ形成していきます。
適応力とはコミュニケーション力・善悪の判断力・規範意識などですが、五感や身体の成長も同時進行をしています。親世代以上の大人たちは、新型コロナ禍以前に人格の基礎づくりはほぼ終えています。子どもには、新型コロナウイルスについて大人のような知識も理解力もありませんが、大人の反応(暮らしぶり)から間接的にコロナ禍社会を認識(感受)します。
今回のコロナ禍は、やっと沈静化が見えています。でも、4年目に入ったコロナ禍による社会・くらし・経済に落とした影の中で、人々の心の状態はどうだったでしょうか。恐怖・不安・悲哀・不自由・孤独・不公平・不満・怒り・絶望・いら立ち・苦悩・腹立ち・焦燥・憂鬱(ゆううつ)というマイナスイメージです。しかも周囲の人たちとの交流が制限され、巣ごもり生活の日々です。
コロナ禍の期間に高校生以下の自殺者が増加したことは、「新しい生活様式」下では、思春期以下の子どもには生きにくいという証しでもあります。大人たちは、沈静化すればコロナ禍以前に戻ればいいのですが、思春期以下の子どもたちは、戻る場所がよく分からないので困っているのです。
コロナ禍前なら兄は6歳のころに、妹は3歳のころの暮らしぶりに戻すことになりますが、この年齢では記憶力そのものがまだ十分に備わっていないのです。
7歳頃までは思考力・判断力が育っていない分、模倣によって社会への適応力を身につけていきます。それも選択ではなく、無批判に表面的に「まねをする」のです。だから大人は、「まねされては困ることは見せないこと」です。
7歳から14歳頃は、まねする人を選び始めます。好きな人・あこがれの人・尊敬する人・信頼できる人の話を聞いて実践し、人格を形成する時期です。となると、マイナスイメージにあふれた環境は避けた方がいいし、希望・快適・友情・連帯・安心・自由・喜び・笑顔のプラスイメージに満ちた環境を意図的に増やしていけばいいことになります。子どもにマスクを外させたいなら、マスクを外してさっそうと快適に生きている自分を見せればいいのです。
たぶん、学校にお願いに行っても、「マスクの着脱を強要しない」という文科省のフレーズを繰り返し聞かされるだけになるでしょう。保護者たちにはそれぞれの事情があり、声を上げていないけれど「もうしばらくマスクを着用を続けてほしい」と願っている方もいるかもしれません。
マスクがない方が、友だちの気持ちが分かっていいと気付かせることが大事です。「自分の気持ちを分かってもらうには、マスクを外した方がいいかもしれないよ」と二人のお子さんに言ってみてください。気の合う保護者同士が声を掛けあって、強要でなく、軽く背中を押すくらいでいいのです。マスクを外した方が頭がすっきりするし、気持ちが明るくなるし、元気が出てくるし、楽しく暮らせると。
コロナ禍以前は、マスクをしていたのは体調の悪い子だけでした。マスク着用は、運動会や文化祭が実施できず、修学旅行も中止せざるを得なかった状況のシンボルです。5月8日からは感染症法上、新型コロナが5類に分類されるので、もし新型コロナに感染しても、自宅待機になることも、隔離されることも、「全国で修学旅行中止」という事態になることもありません。
なかなかマスクを外せない子どもにイライラしていては、環境をマイナスイメージにします。今から、自分にできる範囲でプラスイメージの環境を整えていきましょう。
竹下和男(たけした・かずお)
1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。