カルチャー

昆虫の魅力を多角的に深掘り 東京スカイツリーで「大昆虫展」開催中

上月財団が展示したイラスト「White Ghost」
上月財団が展示したイラスト「White Ghost」

 家族連れらでにぎわう夏の東京スカイツリー(東京都墨田区)観光は、意外に自然に触れられるスポットが多い。東京スカイツリータウン・ソラマチ5・6階には、砂の中からひょろりと顔を出して、ゆらりゆらりと水中で揺れる細長い魚チンアナゴが大人気のすみだ水族館が魚好きを迎え、同じくソラマチ5階では、昆虫好き大歓迎の「大昆虫展in 東京スカイツリータウン」が9月3日まで開かれている。

 夏のスカイツリーイベントとして定着した大昆虫展の目玉は、なんといっても実際に生きたカブトムシやクワガタムシに触れることができる体験展示の「ふれあいの森」。樹木を配して森に似せた空間内でカブトムシやクワガタムシ探しを楽しむことができる。カブトムシに触ったことがある子どもは、さっと角に手を伸ばしてすぐ捕まえるが、初めてカブトムシに触る子どもは恐る恐る手を伸ばす。中には手を引っ込めて泣き出す子も。それでも保護者に促されてカブトムシの角をつかむと瞬時に笑顔に変わり得意顔。都会では、森の減少でますます減るカブトムシとの触れ合い体験は、子どもを確実にたくましくする。

カブトムシを捕まえた少年
カブトムシを捕まえた少年

 このふれあいの森を核にして、大昆虫展の内容は年々充実している。さまざまな角度から昆虫に迫る、“見て、触って、学ぶ”昆虫大百科博覧会の様相を示している。今回は大昆虫展に後援、協力する企業・団体が個性的な切り口から昆虫の多面的な世界を考えさせる企画展示を会場内で展開している。

クワガタムシなどの昆虫を模した「王様戦隊キングオージャー」の昆虫キャラクター玩具の展示
クワガタムシなどの昆虫を模した「王様戦隊キングオージャー」の昆虫キャラクター玩具の展示

 バンダイは、子どもたちが大好きなヒーローが活躍する戦隊モノ特撮テレビ番組「王様戦隊キングオージャー」のキャラクター玩具を50点余り展示した。戦隊モノと昆虫のつながりは? という疑問が聞こえてきそうだが、実は同番組、放映するテレビ朝日の番宣によると「本作は、圧倒的な強さの象徴である“王様”がヒーローとなって平和を守る物語。5人のヒーローとともに人々を守るため敵と戦うのは昆虫モチーフのロボ。“5人の王様×昆虫ロボ”というスーパー戦隊シリーズ史上初の組み合わせ」。この昆虫モチーフのロボは「昆虫型生命体シュゴッド」と呼ばれており、このクワガタや、トンボ、カマキリ、パピヨン(チョウ)、ハチなどに模したシュゴッドの玩具をたくさん展示している。各昆虫の特徴をどのように捉えてシュゴッドを造形しているか、実際の昆虫を頭の中でイメージして見比べると面白いかもしれない。

山田養蜂場の展示
山田養蜂場の展示

 蜂蜜という食品の切り口からハチの世界に迫るのが、山田養蜂場(岡山県鏡野町)の展示。ミツバチが花の蜜を一端、胃の中にためる「蜜胃」(みつい)やミツバチが長い舌を使って巣の壁に蜜を塗り付けるようにしてためる作業、糖度80度ぐらいになったら蜜蝋で巣にふたをすることなど「完熟蜂蜜」ができるまでの過程をパネルなどで詳しく説明している。併せて山田養蜂場の社員が蜂蜜作りにかける熱い思いを語る動画も放映。人間に美味をもたらすミツバチの不思議を科学的かつ情熱的に伝えている。

クビアカツヤカミキリの標本
クビアカツヤカミキリの標本

 一方、後援の環境省の展示は、人間に美味をもたらす昆虫ではなく、害をもたらす「特定外来生物」のいくつかを標本とともに紹介。中国から来た体長30~40ミリの首部分が赤い「クビアカツヤカミキリ」は、幼虫がサクラや桃の木の幹を食べてしまい、穴ぼこだらけにしてしまうという。日本人が大好きな「お花見ができなくなっちゃうかも」と展示パネルは警戒を呼び掛けていた。

 大昆虫展を後援する上月財団(東京都港区)は、イラストレーターや漫画家などクリエーターの視点から昆虫の世界に案内する。上月財団は、イラストレーターや漫画家などを目指す15~25歳ぐらいの「無名の芸術家の卵」を経済的に支援する「クリエーター育成事業」に長年取り組んでいる。この支援を受け、プロとして活躍する人材を数多く輩出した。このクリエーター育成事業は、小さな幼虫が豊かな栄養を得て、立派な成虫として巣立っていく昆虫物語のイメージとも重なる。

 展示物は、クリエーター育成事業の支援を受けたイラストレーターや漫画家の作品計8点。いずれもテーマに昆虫が関わる。イラストは人さし指に小さな生物がいる「ちいさなモンスター」(上原明日香作)や白いクワガタムシの周りで黄色いチョウが舞う「蝶(チョウ)使いとクワガタ」(白作)などのほか、ことのほか興味深い「White Ghost(ホワイトゴースト)」(呉鯛作)などの作品が並ぶ。

 「White Ghost」はセミの幼虫が殻を破って白い体を徐々に見せて成虫になる「羽化」の過程のイメージを豊かに喚起させる内容で、背後にうっすらとぼかし気味に描かれた白いセミの縁取りが、タイトルの「ゴースト(幽霊)」と響き合い、短命で知られるセミのはかない一生を感じさせる味わい深い作品となっている。別の視点から鑑賞すれば、育成事業の支援を受けて、クリエーターの卵たちがプロとなって活躍する成長した姿を神秘的で偉大な過程と捉えて振り返ることも可能かもしれない。

 今年の大昆虫展は、エンタメ、玩具、食品、芸術など意外な角度から昆虫の豊かな世界に導いてくれる。リピーターとなって何回見ても飽きない、深掘りできる展示内容になっている。