ニュースの中で、また一つ爆発の音が響いた。イランとイスラエルの関係に緊張感がある今、空を越えて飛ぶのは、言葉ではなく「ミサイル」。
正義の名をまとった報復は繰り返され、また一つ、名もなき命が奪われていく。
戦争や紛争のニュースに触れるたび、心の奥で叫びたくなります。
「この命は、誰のものなの」
まだ、こんな報道もない6月頭に、私は旅に出た。向かった先は未知なる国、タジキスタン。中央アジアの山々に囲まれた小さな国で、JICA(国際協力機構)さんが行っている支援活動の現場を訪ねてきました。
政治でもなく軍事でもない、人と人とが向き合い、支え合おうとする、静かな優しさに出会うために。
私にとって特に忘れられないのが、バフダットという町にある「ユースセンター」。ここでは、アフガニスタンから逃れてきた若者たちが、裁縫やお菓子作りの技術、音楽、ヘアメイクなど手に職をつけるために懸命に学んでいる。彼女たちの目は不安も抱えながらも、未来への光を探しているようにも感じ、「希望を捨てていない」それが印象的だった。私の胸の奥で、以前から支援している難民となってしまった人々が紡いだ言葉の記憶が心の中でゆっくりと目を覚ました。難民という言葉で片付けてはいけない。みんな、戦火の中で生まれ、国を越えて生き延びている。異国で言葉もわからず、文化にもなじめず、それでも「生きる場所」をみんな探している。
かわいそうな存在として見るのではなく、このような場所で「争わずに学ぶ」という選択肢を与える。学ぶという事の重要性を改めて痛感しましたし、その中で課題も多くあり、この世界情勢の中、どう、「居場所」を守っていくのか。
他にもJICAさんはこの地でさまざまな支援を続けている。アフガン国境に近い村での水道インフラの整備、母子保健の体制強化、若者への起業支援、道路建設。そして再生可能エネルギーの導入など。それはどれも大きなニュースにはならないかもしれない。けれど、そのひとつひとつが、「争わずに生きる」ための土台をつくっていた。
JICAさんの活動には、押しつけがましさがない。耳を傾け、相手の声を聞くところから始まる。文化や背景の違いを尊重し、寄り添い、信頼を築いていく。まるで、大地に水をしみ込ませるように、静かに、でも確かに根を張っている。
イランとイスラエルの間で緊張が続く中、「対話の力」など夢物語のように聞こえるかもしれません。けれど、私はタジキスタンで、その「夢」の実現には時間がかかるかもしれないが、確かに現実になっていくのを感じた。
センターで出会った一人のアフガニスタンの少女が、最後に私に声をかけてくれた。美しく希望に満ちた大きな瞳で力強く「私たち人間は、みんな友だち。この星は誰のものでもない。私は女性の権利を守れる人間になるから」その言葉が、何よりも強く胸を打った。
ミサイルではなく、言葉と意思を持って生きようとする姿、世界をつなぐその想像力に、私は涙をこらえられなかった。
残念ながら今、世界はあまりにも分断されています。だけど、人は出会い、話し、手を取り合うことができると信じている。
JICAさんの活動は、その可能性を静かに私に証明してくれた。私はこれからも声をあげ続けたい。争わなくても、支え合って生きていける世界があることを。
そしてその世界は、遠い夢ではなく、誰かが信じ、動き、寄り添うことで確かに存在しているのだということを。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 26からの転載】
サヘル・ローズ/俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。