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オンラインの囲碁教室に認知機能の低下抑制効果はあるのか? 湖山グループの介護施設で検証開始、滑り出し上々

(左から)棋士の久保秀夫さん、東京都健康長寿医療センター研究所の医師・飯塚あいさん、湖山医療福祉グループ代表の湖山泰成さん

 囲碁が高齢者の健康に与える有効性について研究している東京都健康長寿医療センター研究所の医師・飯塚あいさん。この度、タブレットを用いてインターネット上で囲碁を学ぶ、オンラインの囲碁教室プログラムによる検証を開始した。湖山医療福祉グループ(以下湖山グループ)の介護施設の協力を得て取り組む検証の現状を聞いた。

——高齢者の認知機能の低下抑制を研究するにあたり、なぜ囲碁を選ばれたのですか?

飯塚 高齢になり認知機能が低下した場合に、新しいことを学んで知的な刺激を得るのがよいことは過去の研究からわかっています。その上で、囲碁はまずルールがシンプルなのが良いと思っています。将棋やチェスなら駒の動き、麻雀なら牌をそろえるとか、最初に覚えることが多いと、認知症を既に発症した、あるいは認知機能が低下した人が新たに始めるのはちょっとハードルが高い。一方、オセロのような誰でも知っているゲームだと学習のプロセスがない。もちろん将棋でもオセロでも五目並べでも、やらないよりは絶対良いですが、研究にあたっては、なるべく多くの方にアプローチできるようにと考えていました。シンプルさと学習の負荷のバランスが良く、もっとも良い効果が得られるのは囲碁だと思いました。

——これまでどんな結果が出ていますか?

飯塚 囲碁の経験がない高齢者、認知症患者向けに囲碁教室のプログラムを組んで一定期間実施したところ、新たに囲碁の学習に取り組んだことで認知機能、注意力、ワーキングメモリーなどの脳の機能が維持できる、あるいは向上するという結果が出ました。この研究は2015年から、湖山グループの高齢者施設入居者のご協力のもと実施してきたのですが、コロナ禍に見舞われたことで、囲碁教室ができなくなってしまいました。そんな折、湖山泰成代表から、オンライン会議ツールと対局アプリを使ってリモートで囲碁教室をしてはという提案をいただき、プログラムを修正しました。

久保さんが講師を務めるオンライン囲碁教室

 

——オンラインのプログラムはどんな内容ですか?

飯塚 対面での囲碁教室は1時間でしたが、オンラインは30分にしました。ルールの講義が10分、練習問題が10分、それとオンライン対局の10分です。全15回で約4カ月間、日本棋院の久保秀夫棋士に講師を務めていただき、入門用の碁盤を使って対局できるようになることを目指します。今までタブレット端末を触ったことがないような人たちができるようになるか、検証しています。

——途中経過としてはいかがですか?

飯塚 まだ人数が少ないので何とも言えないですが、ここまでの検証では認知機能と精神的健康状態が維持できるという結果になりました。認知症の症状は何もしないとゆるやかに下降していくものですが、今回は囲碁教室の事前、事後で数値がほぼ維持されるというポジティブな結果でした。

 久保棋士の説明が分かりやすいこともありますが、オンラインのメリットは思っていたより多いと感じています。多くの方がプログラム後も囲碁を継続したいと言っていますし、どんどん上達して、入門用の9路盤を卒業して13路盤を使った対局ができるようになった方もいます。今後の検証結果を待って、論文を発表する予定です。

オンライン囲碁教室の実施前後での認知機能や精神的健康の変化(飯塚さん提供)

 

——湖山代表にお伺いします。湖山グループはどういう意図で検証を開始したのですか?

湖山 私たちは全国で医療事業や介護事業を行っています。大学では難しい臨床研究も、私たちのような民間の高齢者施設や医療施設なら可能なこともあり、できるだけ受け入れています。結局、高齢者の方が頭を使って生き生きと、楽しく時間を過ごしていただく以上のリハビリはありません。そういう意味では、囲碁を積極的に使って高齢者の医療管理をするという、これはもう「囲碁リハビリ」ですよね。

 飯塚先生ご自身、囲碁が好きと聞いていますが、実益も兼ねてというか、これまでの研究も論文を書かれて、海外の学会でも発表されたと聞き、貢献できたことが私も大変うれしいです。

——オンラインでの実施は湖山さんの発案だそうですね。

湖山 コロナ禍の当時、病院施設での家族の面会は、1階のロビーからパソコンで上の病室とオンラインでつないで実施しましたが、そのころ思いつきました。だって子どもたちはどうですか、世界中でオンラインゲームをやっているでしょう。それなら囲碁教室も、対面でなくてもできると思いました。講師の先生も、施設に来ずに自宅から参加できる。今後は、入居者の高齢者がスマートフォンでお孫さんと囲碁ができるかもしれません。

 社会とのつながりを維持することは、これからの介護施設にとって大事なことです。施設に人が来てくれるのもうれしいですけど、オンライン経由で全国のいろいろな人とコミュニケーションがとれるのは非常に大事。そういう面でも今回の検証は突破口になるのではないか。かつて、介護施設に美術大学の学生に来てもらって入居者と一緒にアート作品を作るという検証をしたことがありました。その時にも思ったのが、アート作品自体の力もさることながら、若い人と一緒になって作品を作る、人と人がつながることこそが必要と感じました。同様に、囲碁の対局を通して、人と人が深く心の奥底でつながることが大事と思っています。

——将来、何かお考えのことはありますか?

飯塚 例えばシニア層が参加できる国際的な囲碁大会ができたら、とても盛り上がるのではないかと考えています。

湖山 それはいいですね。当グループも協力しますよ。