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【一歩踏み出した輪島】(4)  「輪島だから」の味 元気とともに発信

麹のクラフトビールをアイテムに加えた谷川醸造の谷川貴昭さん(右)と千穂さん=7月31日、輪島市

 輪島で、足元の暮らしすべてが本当に復興するには確かに時間がかかる。苦悩も葛藤もあるが、現地に行くと、そればかりではない。変わらない美しい山、海の恵みを生かし、新たなものを生み出す人。地元を元気にしようと走り回る人。その強さと笑顔に、かえってこっちが力をもらう。

こうじでご当地ビール、「空の上は晴れている」 <谷川醸造>

 「ほんのり甘く、深い。米こうじ由来の香りがふあっと香る感じです」。谷川醸造4代目の谷川貴昭さん・千穂さん夫妻は、今年、これまで輪島になかったご当地のクラフトビールを商品アイテムに加えた。被災後も絶えず作り続ける自慢のこうじがベース。全壊した醤油(しょうゆ)工場の再建に力を注ぐなかでの、新たな挑戦だ。

 ビールづくりに協力したのは、富山県南砺市の「NAT.BREW」(ナットブリュー)。震災後、共通の知人を通じて醸造家と知り合った。輪島には日本酒の蔵、ワイナリーはあるが、地のビールはない。谷川醸造にはもともと保有していた酒販免許もあり、震災前からいつかビールを商品化できたらとも考えていたが、想定外のタイミングで実現することに。「住む人は減っていくのかもしれないが、来ていただける人を考えていく時に、一緒に飲めたら。そして、人同士をつなげるものがつくれたら、と」。

サクラ醤油の暖簾が架かった店の外観。昨年は青いシートで覆われていた=7月31日、輪島市

▽輪島へのエール

 谷川醸造の米こうじをベースに、一緒に輪島をめぐった醸造家が自ら調達した輪島産米も加えた第1弾の商品名は「雲の上はいつも晴れ」。たとえ今は土砂降りでも必ず晴れる時がくる。頑張る輪島全体への力強いエールだ。第2弾は少し味わいを変えたこうじビール、その次は地の果物を使ったフルーツビールもつくろうと考えている。

 谷川醸造は被災後に醤油の生産停止に追い込まれ、他社の委託生産の協力を得て、生揚(きあ)げ醤油に独自の味付けをした甘口の主力ブランド「サクラ醤油」の出荷を続けている。木おけで仕込む本醸造の醤油づくり再開は、これからだ。倒壊した蔵が解体され、今年3月、ようやく更地になった。新しい蔵を建設しながら仮建屋で本醸造の仕込みを始める予定だが、救出された木おけがすべて使えるかは、まだ分からない。

サクラ醤油や麹を使った調味料のほか、Tシャツや手ぬぐい、ポーチなど見るだけで楽しくなるオリジナルグッズが並ぶ店内=7月31日、輪島市

 

▽ご縁から生まれたグッズたち

 それでも「どんな形でも一歩進む、いろんな形で前へ」。下を向いているのは、らしくない。昨年は青いシートに覆われていた社屋の一部は扉が新調され、イベントスペースを併設した店ができた。醤油、みそ、こうじを使った調味料とともに、地元のイラストレーターとコラボレーションしたTシャツや手ぬぐいなどのオリジナルグッズも並ぶ。「ご縁を大切にしていった中で、新たにできたもの」たちが迎えてくれる空間は、わくわく感もいっぱいだ。

「能登ベイク」のパンで地元の光に <ラポール デュ パン>

 クロワッサンやハード系のフランスパンが県外のファンにも人気のブーランジュリー「ラポール デュ パン」。鹿島芳朗さん・美江さん夫妻と両親で切り盛りする店が、震災発生後の空白を経て再びパンを焼き始めてから、1年半近くがたつ。「震災前よりも、良いパンを焼きたいっていう気持ちや、地元への思いが強くなって」と芳朗さん。

焼きあがったパンが並ぶ店に立つ鹿島芳朗さん(左)と美江さん=8月1日、輪島市

 新しくできた商品の一つ、「ヴィーガンケーキ」に使ったのは、輪島の酒蔵・白藤酒造店の酒かす。白藤酒造店は今夏、震災後初めて仕込んだお酒を出荷した。「ずっと長く続いてきた酒造りが止まり、再び始められた、その一発目で出たもの。長い歴史の中での貴重なタイミングの酒かすをいただいた」。それに、粒の大きさと宝石のような鮮やかな赤色から全国の和菓子メーカーにも引き合いの強い小豆・能登大納言を加えた、「能登ベイク(Bake)の今しかできない味」だ。

ライ麦、全粒粉を使ったパンの種類を増やしている。消化が良く、食べ応えもよいのが特徴だという=8月1日、輪島市