超豪華「トランプホテル」誘致?  みずほ総研、 17 年とんでも予想

1月20日にトランプ米大統領が誕生した。昨年11月の大統領選投票日の直前までかなり高い確率でクリントン氏の当選が予測されていただけに、各方面には大きな衝撃が走った。英国では昨年6月の国民投票で予想に反し欧州連合(EU)離脱(Brexit)が決定。いずれも事前の予想では可能性が極めて低いとされ、生じた場合は影響が大きいシナリオと考えられてきた。こうしたイベントをテールリスクと呼ぶ。みずほ総合研究所では、毎年年末に独自のテールリスクシナリオを発表しており、「とんでも予想」と名付けている。さて、今年は何が起きる?

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強まる「世直し」意識

「とんでも予想」の作成においては、各分野を担当するエコノミストがテールリスクシナリオの候補を示し、その中で重要度が高いと思われるシナリオを絞り込んでいる。2015年末に作成した「とんでも予想2016年」では、第1位として「トランプ氏、米大統領選に当選」を掲げていた。ちなみに英国のEU離脱は選考過程の最終段階まで残っていたが、最終的には予想から外していた。
 
16年に世界各地で想定外のことが多く起きた背景として「世直し」を求める国民の期待が高まっていたことが考えられる。8年前にオバマ大統領は「チェンジ」を掲げたが、外交などで消極姿勢が見られる中、米国民に閉塞感が高まっていた。ゲームチェンジャーを求める動きがトランプ氏当選という予想外の結果に結び付いたのではないか。
英国においても、既存の政治を変えたいとの「世直し」意識が予想以上に強まっていたと考えられる。トランプ氏勝利の場合、市場では株安・円高が進むリスクオフ*の展開が予想されていたが、新政権の減税やインフラ投資などへの期待からリスクオンの展開となった。
米国債利回りは大幅に上昇し、ダウ平均は2万㌦を超えた。トランプ大統領は政権発足後、保護主義的な政策を打ち出しているが、市場の期待は今のことろ維持されている。英国でも国民投票後にポンド相場が急落したが、通貨安が景気を下支えする状況だ。

 

EU離脱が撤回される?

図表はみずほ総合研究所で作成した17年の「とんでも予想」である。今年は上位4位までトランプ政権に関連したシナリオとなっている。トランプ政権の政策内容は2月の両院議会演説などで明らかとなってくる。トランプ政権が保護主義的政策に偏らず、減税やインフラ投資などを進めていけば、昨年の大統領選後に進展した株高、金利上昇がさらに進む可能性がある。これがシナリオ2である。
今後重要なポイントは米金利上昇によるドル高に米経済がどこまで耐えられるかという点になろう。シナリオ4はドル高の影響で米経済が減速し、産業界などからドル高修正を迫られたトランプ氏が矛先を日本に向け、日銀の金融政策を円安誘導策と批判するシナリオである。

米国からの圧力で日銀がマイナス金利政策やイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)政策を取りやめれば、長期金利が急上昇し、円高が進むリスクが考えられる。
また、今年は欧州で政治イベントが目白押しであり、選挙結果次第でユーロ崩壊が意識される可能性がある。まずは4月に行われるフランス大統領選、秋にかけてはドイツの議会選挙が注目だ。「とんでも予想」で掲げるフランス大統領選における右派政党勝利のシナリオは、現実化し得るシナリオ6といえよう。
英国のEU離脱に向けた動きにも留意が必要だ。シナリオ7は、英議会でEU離脱通告が否決され、解散・総選挙の末、EU離脱が撤回されるというものだ。もっとも、メイ首相はEU単一市場からの脱退方針を表明しており、現時点では3月にも離脱通告がなされる可能性が高まっている。地政学的リスクの高まりにも注意が必要だ。トランプ政権が「米国第一主義」を掲げ内向き志向を強めれば、中東や東シナ海などでパワーバランスが変化する可能性がある。

 

金融危機のリスク?

特に米国と中国、ロシアとの関係は重要と考えられる。トランプ政権は中国に対し強硬なスタンスを示しているが、シナリオ3では逆に米国が中国に接近するシナリオとしている。リーマン・ショック後に主要国で行われた金融緩和が転換点を迎えつつある中、金融危機が起きるリスクにも留意が必要だ。連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを行う一方、欧州中央銀行(ECB)、日銀は強力な金融緩和を続けているが、金融政策の限界を指摘する見方も増えている。
政策の転換が意識されれば、市場に大きな影響を与える可能性がある。過去の経済金融危機を振り返ると、「10年サイクルのジンクス」といえるように、1987年のブラックマンデー、97年のアジア通貨危機、2007年のサブプライム危機と、大きく金融市場を揺るがす事件が10年置きに生じていることが分かる。
 
17年の位置付けとしては、トランプ政権の「世直し」期待が経済のモメンタム(勢い)を高めるが、同時にその副作用として新興国を含めた金融市場の波乱には留意を怠れない。これがシナリオ9である。
その他、金融政策の限界が意識される中、グローバルに財政への期待が高まる動きが注目される。シナリオ1の日本における大型減税や、シナリオ5のヘリコプターマネー政策などは財政に関する「とんでも予想」だ。

(みずほ総合研究所 市場調査部上席主任エコノミスト 野口 雄裕)

*リスクオフ:リスク資産からの資金の引き揚げ