与党への逆風がやまない。緊急事態宣言下の深夜に銀座のクラブでの与党議員会食や菅義偉首相の長男による総務省幹部接待問題が発覚。女性蔑視発言による東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の辞任も加わり、野党の攻撃は激しさを増す。次期衆院選を見据え、4月の衆参3選挙や7月の東京都議選に対する審判が待ち構える。与野党の議員は、世論の風向きを凝視する日々が続く。
遅れる政治決断
「ご自身の中で熟慮を重ねた上で辞意を表明されたものと考えています」。菅首相は2月12日夜、官邸で記者団に組織委の森会長辞任表明の受け止めを淡々と語った。森氏に辞任を求めなかった対応を問われると「全く違うと思います」と語気を強めた。
首相は国会で、森氏の発言について国益に沿うものではないと答弁しながらも「人事は組織委で決めるべきだ」と繰り返してきた。進退問題と距離を置きつつ、森氏を擁護するかのような曖昧な答弁に終始する首相に対し、野党は執拗(しつよう)に追及した。小泉純一郎、安倍晋三両首相の後見役として政界で大きな存在感を示してきた森氏に「辞任を進言できる人はいない」(政権幹部)状況下で、首相も言葉に窮していたのが実情だ。森氏が辞任の意向を固め、首相もようやく水面下での調整に乗り出すと野党からは「政治介入だ」との批判が上がった。
共同通信社が2月6、7両日に実施した全国電話世論調査によると、菅内閣の支持率は38・8%で前回1月調査から2・5ポイント続落し、不支持率が支持率を2カ月連続で上回った。「内閣を支持する」と回答した人に最も大きな理由を聞くと、「首相に指導力がある」と答えた人は前回から2・3ポイント減の2・4%にとどまった。野党は「この政権に任せておけないという気持ちの表れ」(小池晃・共産党書記局長)と勢いづく。
首相周辺は「新型コロナウイルスの感染が収束してくれば支持率も戻る」と楽観視する。だが、観光支援事業「Go To トラベル」の全国停止や、新型コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言再発令といった政治決断の遅れが支持率の下落につながったのは間違いない。コロナ禍で首相の政権の統治力や危機管理対応が問われている。
懸念
内閣支持率の下落と同時に、地方選にも暗雲が漂う。与党が都議選の前哨戦と位置づけてきた1月末の千代田区長選は、推薦候補が都民ファーストの会推薦候補に敗北。2月7日の西東京市長選は、立憲民主、共産両党の推薦候補に1514票差で勝利を収めた。最終盤には知名度のある自民党の石破茂元幹事長と公明党の高木陽介国対委員長を街頭演説に投入するなどてこ入れを図っても相手を突き放すことができない厳しい事実を突きつけられた。自民党都連関係者は「地元に縁もゆかりもない野党の落下傘候補相手になぜこんな猛追を許してしまったのか」と驚きを隠さない。
11年前の2010年2月。民主党政権の誕生により野党に転落していた自民党は与野党対決の構図となった長崎県知事選と東京・町田市長選で与党推薦候補を撃破。同年7月の参院選では、当時の菅直人首相が掲げた消費税率引き上げ論などの影響も相まって、民主党は過半数割れの大敗を喫した。自民党は改選第1党となり政権奪還への地歩を築いていった。
地方選で苦戦を強いられる自民党の現状に関し、政権復帰の成功体験をつぶさに見てきた閣僚経験者は「地方選での勝利の積み重ねが国政選挙の勝敗を左右する。甘く見てはいけない」と懸念を募らせる。
警戒
「予算委員会の模様が出ていますけども、他の国でこれほど多くの背広で黒々としている会議体ってあんまりないです」。東京都の小池百合子知事は2月5日の記者会見で、組織委の森会長の女性蔑視発言に関連し、予算委の女性議員の少なさを皮肉った。
森氏の発言を巡り、小池氏は5日に「絶句したし、あってはならない発言だった」と批判。10日には2月に予定される国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長らを含めた4者会談について「今ここで開いても、あまりポジティブな発信にならない」として不参加の意向を明確にした。
もともと2月17日の会談開催案が浮上していたが、組織委は森氏の発言を受けて都側に2月上旬の4者会談先送りを伝えていた。小池氏が4者会談欠席や森氏批判、予算委にあえて言及するのは「都議選をにらんで世論を味方に付ける政局的な動き」(自民党重鎮)との見方がもっぱらだ。
都議選の結果は直後の国政選挙の都市部での先行指標になるケースがあり、秋まで実施される衆院選に影響を与える可能性をはらむ。自民党は17年の都議選で、小池氏率いた都民ファーストの会の前に歴史的惨敗を喫した。加計学園問題などを巡り批判を浴びていた安倍晋三首相(当時)による「安倍1強」体制に大打撃を与えた。
1月の千代田区長選で、小池氏は都民ファーストの会推薦候補の応援演説に立ち、支援の姿勢を鮮明にした。都議選で小池氏との全面対決は避けたい思いとは裏腹に、小池氏が言動を活発化させつつあることに、自民党内では警戒感が急速に広がる。菅政権幹部は「あの人(小池氏)は手のひらを返すのがうまい」とつぶやいた。衆院選もにらんだ戦いの火ぶたは既に切られている。
(共同通信政治部次長 倉本 義孝)
(KyodoWeekly2月22日号から転載)