「デモクラシーの現場から」コロナ逆風、衆院選へ漂う暗雲

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 衆院議員の任期満了(10月21日)まで残り3カ月を切った。新型コロナウイルスの感染収束のめどが立たず、逆風下の東京都議選で自民党は第1党を奪還したものの伸び悩み、菅義偉首相の衆院選解散戦略にも暗雲が漂う。

 

落胆 

 

 「謙虚に受け止めさせていただきたい」。菅首相は東京都議選投開票から一夜明けた7月5日、勝敗ラインとした自民、公明両党による過半数議席を達成できなかった結果を静かな口調で振り返った。

 秋までに行われる衆院選の前哨戦と位置付けられた都議選(定数127)は、自民党が25議席から33議席に伸ばして第1党を奪還したものの、公明党の23議席との合計は56議席。劣勢との見方があった小池百合子知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」は31議席で、自民と僅差の第2党に踏みとどまった。

 猛威を振るう新型コロナウイルスへの対応や東京五輪・パラリンピック開催是非を争点に、与野党は総力戦を展開。選挙戦中盤には自民の獲得議席が50を超え、都民ファの大幅後退との予測があっただけに、自民党幹部は落胆の色を隠せない。

 都議選はその後の国政選挙の先行指標とされるだけに、政権幹部は「衆院選で自民が40~50議席減らす可能性もある」と危機感を募らせる。

 

大胆不敵

 

 告示前に過労を理由に入院した小池氏への同情論が高まり、結果に影響を及ぼしたとの見方もある。6月30日に退院し、7月1日に都庁で緊急記者会見に臨んだ小池氏は「東京大改革を担ってきてくれたのは都民ファの皆さんだ」とエールを送り、態度を明確にした。選挙戦最終日の同3日には候補者の事務所を激励に回った。

 共同通信社が7月4日に実施した都議選に関する出口調査によると、小池氏を「支持する」と答えた人は67・3%に達し、相変わらずの人気の高さをうかがわせた。都市部の選挙を左右する無党派層の投票先は、都民ファが24・9%で最多。共産は17・6%、立憲民主党が15・3%、自民14・5%の順だった。

 小池氏の政治的立ち回りのうまさも際立つ。告示直前、自民党は小池氏に都議選対応を巡り自民、公明、都民ファを平等に応援するか、全く動かないよう要請。小池氏は「約束手形」を切ったとされていたにもかかわらず、最終盤で都民ファ支援にかじを切った。

 自民党内には約束を反故(ほご)にされたという不満が渦巻く中、小池氏は都議選翌日の7月5日、自民党本部を訪ね二階俊博幹事長と約40分間にわたり会談。両氏は、東京五輪・パラリンピックの新型コロナウイルス対策で協力していくことを確認。二階氏から「しっかりと都民のために必要な対策を進めていこう」という言質を取った。党関係者は「小池氏の大胆不敵な行動には恐れ入る」と舌を巻く。

 二階、小池両氏は1994年の新進党結党以降、長く行動を共にし、気脈を通じる関係を築いてきた。昨年の都知事選では、二階氏が自民党による小池氏実質支援の流れを作り、再選へと導いた。二階氏にとって、小池氏との関係維持が党内での政治力の誇示に利用できると踏んだのは想像に難くない。

 不調に終わった都議選の結果を踏まえ、自民党内からは次期衆院選後に小池氏との連携強化を求める訴えが公然と聞かれるようになった。永田町では「小池氏が五輪・パラリンピックを花道に都知事を退き、自民党の推薦を得て無所属で衆院選に打って出る」などの臆測が飛び交う。

 当の小池氏は7月9日の記者会見で、国政復帰の意思を尋ねる質問に対し「皆さんいろいろネタにしていただいているようでございますが、頭の片隅にもありません」とにべもない。ただ、二階氏もCS番組で「国会に戻ってくるならば大いに歓迎だ」と発言するなど、国政復帰論はくすぶり続け、小池氏の動向は政局の中心になりつつある。

 

厳しい風

 

 「未知の敵との闘いは、私にとっても心が休まる時がない」。首相は7月8日の記者会見で、東京都に4度目の緊急事態宣言発令を決定したことを巡り、心情を吐露した。決定を受け、五輪競技の大半は無観客での開催となった。

 コロナ感染拡大の不安や、抑止策の「切り札」(首相)とするワクチン供給不足は、菅政権への批判につながる。自民党重鎮は、都議選での自民党の不振に関し「コロナへの不安が投票先を分散させた」と分析する。

 政権内では、9月5日のパラリンピック閉幕直後の衆院解散、10月総選挙の日程が有力視される。五輪開催による国民の高揚感を追い風に、選挙に勝利して総裁選を無投票で乗り切るという戦略だが、首相の「選挙の顔」としての資質を疑問視する声も漏れる。

 さらにコロナ対応の強化策として要請した、酒類停止に応じない飲食店との取引停止などを関係業界に働き掛けてもらう政府方針は、与党や業界団体の猛反発もあり撤回に追い込まれた。菅氏に政権を託した安倍晋三前首相も「自民党に対し、厳しい風が吹いている」と警戒する。

 菅首相は7月5日、都議選の結果について「冷静に期間を置いて、しっかり分析して次に備えたい」と記者団に語った。国民の声を真摯に受け止め、次期衆院選への戦略を練ることができるのか。熟慮の時間は限られている。

(共同通信政治部次長 倉本 義孝)

 

 

(KyodoWeekly7月26日号から転載)