「デモクラシーの現場から」正念場の経済再生、党再建

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 第2次岸田内閣が発足した。新型コロナウイルスの感染者数が減少傾向にある中で、日本経済の再生が喫緊の課題となる。野党第1党の立憲民主党は党の立て直しを賭けた代表選が幕を開けた。

 

スピード感

 

 「総裁選、組閣、総選挙と、最大限のスピードで駆け抜けてきた。これからはこのスピード感を政策実行にそのまま発揮すべく全力を挙げていく」。岸田文雄首相は11月10日の第2次内閣発足を受けた記者会見で、そう力説した。

 10月31日実施の衆院選で、自民党は追加公認2人を含め、国会運営を主導できる絶対安定多数(261議席)を確保した。選挙戦で訴えた「成長から分配への好循環」を具体化し、目に見える実績作りを急ぐ首相は、11月8日の新しい資本主義実現会議を皮切りに、全世代型社会保障構築会議・公的価格評価検討委員会合同会議(9日)、デジタル田園都市国家構想実現会議(11日)を相次ぎ開催。財政支出40兆円超とされる大規模経済政策策定は急ピッチで進んだ。

 新しい資本主義実現会議がまとめた緊急提言では、賃金を上げた企業に対する税制支援強化などが盛り込まれた。ただ菅政権の成長戦略会議が打ち出した既存政策の継続や焼き直しの多さが目立つ。第2次岸田内閣発足後の会見で首相は、来年の春闘で、自ら労使双方に働き掛け賃上げを促す決意を表明したが、いずれの政策も「安倍、菅両政権の二番煎じ」(政権幹部)との印象は拭えない。

 経済対策の裏付けとなる2021年度補正予算案の年内成立と同時並行で22年度当初予算案の編成作業も加速する。来年1月召集の通常国会では22年度予算の年度内成立を実現し、来夏の参院選に臨む。首相の青写真は万全のように見えるが、新型コロナウイルス流行の「第6波」到来や閣僚の不祥事などが発覚すれば、たちまち膠着(こうちゃく)状況に陥る。政策実現で実績がなければ、国民の不満が増幅する。与党幹部は「綱渡りの政権運営が続く」と語る。

 

数の力

 

 コロナ経済対策として、18歳以下の子どもへの10万円給付に関し、年収960万円の所得制限を導入する方針で合意した。公明党は18歳以下の子どもに一律10万円を給付するとの公約を衆院選で掲げてきた。自民党は生活困窮者を中心に支援すると訴え、両党には「重なる部分と重ならない部分がある」(首相)として給付の在り方を巡り溝があった。ただ国民から「ばらまき」との批判が高まり、連立を組む自民党が高所得者を除く所得制限が必要だと主張。公明側が事実上、譲歩し決着を図った形だ。

 第2次政権発足当初から政策を巡り与党内の混乱が露呈すれば、国民から厳しい視線を浴び首相や与党の政策遂行能力に疑問符が付く。参院選での協力にマイナスとなりかねないと判断した首相官邸が結論を急いだのは間違いない。ただ衆院選で自民党が絶対安定多数を確保したことが大きかったのも事実だ。自民党幹部は「公明党を世論と『数の力』で抑えることができた」と明かす。

 共同通信社が11月10、11両日実施した全国緊急電話世論調査で、10万円相当の給付に所得制限を設ける方針で合意したことについて、公明党支持層では、33・9%が「所得制限を設けず、一律に給付すべきだ」と回答。「適切だ」が35・8%、「所得制限を引き下げ、対象を絞るべきだ」18・0%、「給付するべきではない」11・0%など意見が分かれた。

 

本番

 

 「今回の選挙で違う選択肢を選びようがなかった。この戦略、方向性を選択したことに後悔はない」。衆院選敗北で代表を引責辞任した立憲民主党の枝野幸男氏は11月12日の記者会見で、共産党などとの連携強化路線は間違っていなかったと強調した。

 立民は衆院選で96議席と公示前の110議席から減らした。共産党などの4野党と候補を一本化し、213選挙区で与党や与党系無所属の候補と対決。小選挙区こそ公示前48議席から57議席に増えたものの、比例代表は公示前62議席から39議席まで大幅に減らした。

 枝野氏は選挙前、候補一本化を進めるため共産党との間で、政権交代が実現した場合に「閣外協力」することで合意した。一定の効果はあったものの、立民の最大支援組織である連合が協力に反発した。連合の芳野友子会長は野党共闘について「議席を減らしたということは失敗だった」と手厳しい。

 野党共闘の構築は「中道の有権者を引き付けることが前提とならなければ、持続可能なものにはなりえない」(政界再編、山本健太郎著)のは間違いない。11月30日投開票の立民代表選では、野党共闘や党再生の在り方を真剣に議論しなければ、自公連立政権には太刀打ちできない。

 だが野党内の勢力図は複雑さを増す。衆院選で共に議席を増やした日本維新の会と国民民主党は、立民などこれまでの野党勢力とは一線を画し、政策提言や法案提出など独自路線を歩む。「第三極」として岸田政権に不満を持ち、野党共闘にも批判的な有権者の受け皿となる戦略で、参院選をにらむ。

 「岸田文雄君を、本院において内閣総理大臣に指名することに決まりました」。細田博之衆院議長が首相指名選挙の結果を報告すると、首相は席から立ち上がり三方に向かって頭を下げた。真一文字に口を結んだ表情には緊張感が漂っていた。ある閣僚経験者は「首相に衆院選後の安堵(あんど)の気持ちはない。視線の先にあるのは参院選だ」と語った。首相の政権運営や立民代表選の行方はどうなるのか。まつりごとはこれから本番を迎える。

(共同通信政治部次長 倉本 義孝)

 

(KyodoWeekly11月22日号から転載)