
東京五輪の開会式で、1824台ものドローンを使う巨大なオブジェが夜空に浮かび上がった。
市松模様のエンブレムが地球儀に変化していく演出に、今後も大量の半導体やリチウム電池が必要になると感じた。
ドローンだけではない。自動車は「車輪が付いたコンピューター」に変貌し、人工知能(AI)の開発は日進月歩だ。こうした需要の急増で、「産業のコメ」といわれる半導体は不足が続く。
さらに、米国と中国の対立激化を映して、経済を外交の武器に使う「エコノミック・ステートクラフト」(経済外交)や「経済安全保障」という考え方が台頭している。
半導体のように戦略的な物資を輸入に依存すると安全保障上危険だから、国内生産を保護・強化しようという発想だ。国内生産の重要性を訴え続けてきた農業関係者は「何を今更」と感じるかもしれない。だが「経済安保」の要はサプライチェーン(部品の調達・供給網)であり、旧来の国産重視や保護主義とは一線を画している。
サプライチェーンはグローバル化が加速し、細かい編み目のようなつながり方に進化している。食料も例外ではない。家庭などで消費するコメは、ほぼ100%の自給率を維持しているが、化学肥料の原料、トラクターなど農機を動かすのに必要な重油などの燃料は輸入に依存している。
さらに、情報技術(IT)を駆使したスマート農業への期待が高まっており、既にドローンを含むIT機器は大規模稲作に不可欠な農機になり始めた。「産業のコメ」(半導体)がなければIT農機は動かず、コメをつくれない時代に突入している。
食料安保は、見掛けのカロリーベースの自給率の高低だけで議論してもほとんど意味がない。
その核心は、複雑化するサプライチェーンを最適にコントロールし、万が一調達ルートが分断されても、国内外どこからでも柔軟に調達先を切り替えられるようなシステム作りに移っていく。食料安保の考え方も政策も転換を迫られるだろう。
(共同通信アグリラボ所長 石井 勇人)
(KyodoWeekly8月16&23日号から転載)