イチゴの年間輸出量
イチゴの輸出が絶好調だ。香港、台湾、シンガポール向けを中心に今年1~3月期は前年同期比倍増の1235トン。3カ月間で昨年1年間の輸出(1179トン)を上回った。ただ昨年夏に解禁されたオーストラリア向け輸出は苦戦している。
日本・オーストラリア両政府は昨年、イチゴの病害虫対策などに合意、岐阜県は他産地に先駆けて輸出態勢を整え、今年2月25日に古田肇知事らが出席して、華々しく「出発式」を開いた。初荷は2日後にメルボルン市内のレストランに届くはずだった。
ところが、経済通信社「NNAオーストラリア」の現地からの報道によると、空港での抽出検査で半分近くのイチゴが抜き取られたり、切られたりした。検査にも時間がかかり、「使い物にならない。ジャムやソースにするしかない」と不満が噴出したという。
しかし、検疫の厳しさは予想できたことだ。
特にオーストラリアは、生態系が独特で外来種や感染症の侵入に対する警戒が強い。さらにクイーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州などイチゴの大生産地がある。国内に守るべき産地がある場合、本来は科学的であるべき防疫・検疫が恣意(しい)的に運用されがちなのが現実だ。
その点で日本は「先輩格」だ。1990年代にリンゴの病気である火傷病(かしょうびょう)を予防するため厳しい輸入条件を課した。米政府は「科学的根拠がない」と世界貿易機関(WTO)に提訴し、日本は敗訴している。
問題の本質は、岐阜県の関係者がこうした「常識」を十分に認識していなかったことだ。「一番乗り」という話題作りを最優先するため、予備調査や関係者との情報交換が不十分だったのではないか。中期的な展望も描き切れていない。「日本のイチゴは品質が異なるから共存できる」と考えるのは甘い。
オーストラリアには栽培技術が蓄積されており、甘くて大粒の「オーストラリア産イチゴ」が登場する日も遠くないだろう。それどころか、それを日本に輸出する可能性も排除できない。
新しい市場への参入は試行錯誤を繰り返す必要がある。だからこそ「失敗」を恐れてはならない。真の失敗は、経験から何も学ばないことだ。岐阜県には戦略の立て直しを期待したい。
(共同通信アグリラボ所長 石井 勇人)
(KyodoWeekly5月31日号から転載)