カルチャー

【連載コラム 国内外の図書館をめぐる-5-】 “新しい文化施設”  レンヌ市立図書館

逆ピラミッド型の図書館の入り口
逆ピラミッド型の図書館の入り口

 パリから高速鉄道で約1時間半。フランス西部ブルターニュ地域圏の首府レンヌは、古くはブルターニュ公国の首都として栄え、フランス王妃アンヌ・ド・ブルターニュゆかりの地として長い歴史と伝統を持つ。木組みの古民家や新古典派様式の大聖堂など見どころも多いが、モンサンミシェル観光の途上で立ち寄ったという人も多いかもしれない。駅を出て北側の旧市街に向かって歩くと、間もなく建物に刺さるような逆ピラミッドが特徴的な「レ・シャン・リーブル」が見えてくる。

木組みの家が特徴的なレンヌの旧市街
木組みの家が特徴的なレンヌの旧市街

 この街の公共図書館は、博物館やプラネタリウム、展示場やホールなどが入るこの複合コミュニティーホールの中にある。議会の中や大学など、限られた人が利用する図書館しかなかったこの街で、市立図書館の歴史は19世紀以降と案外新しい。レ・シャン・リーブルに公共図書館が引っ越してきたのは2006年。「自由の野原、広場」を意味するこの施設に入ると、外部から見えている逆三角の下部が中央に見え、その中がすべて図書館になっている。
 学生の町として比較的若い世代が多いレンヌで、この建物は“新しい文化施設”と位置付けられ、地域図書館の中でも若者が利用しやすい工夫が印象的だ。たとえば受け付けを通過して2階に上がると「メッツァニン・アド」という中高生向けの閲覧室がある。カラフルなソファが置かれ、小説やマンガ、雑誌などをのんびり読むことができるほか、ゲーム機にコントローラーも設置。1人1日1時間まで予約して遊ぶことができる。本棚の端には、テーブルサッカーも置いてある。

自然光がたっぷり入り明るい閲覧室内
自然光がたっぷり入り明るい閲覧室内

 「どれくらいの中高生が利用していますか?」とたずねると、「放課後の時間帯は、学校帰りの子で満席ですよ」と図書館員。読書の勧めというより、中高生の居場所作りという視点がはっきりしている。「ここに友だちと一緒にくれば無料で遊べるし一緒に宿題もできる。そのうち周囲にある本に手が伸びるんです」。環境づくりと足を運んでもらう工夫の大切さがよく分かる。

 すぐ上階の3階は「音楽、映画、ダンス」の部屋。楽器が借りられ、電子ピアノが弾ける。借りたCDやDVDを鑑賞する場所があり、もちろん映画や演劇に関する書籍もそろっている。4階は科学、生活、就職や教育に関する本、5階は小説、言語関係、6階には芸術関係、そして最上階7階にはブルターニュの文化遺産に関する書籍がそろっている。各階の閲覧室は真ん中に書棚、周囲に閲覧用の机が置かれ、利用者は逆ピラミッド型のガラス窓から外を眺めつつ読書できる。

 1階には子ども用の書籍ともう一つ、「市民の部屋」がある。無料で使えるコンピューターが設置され、100種類以上の新聞や雑誌が読める。そして毎週金曜日の夕方には、図書館員とボランティアスタッフの2人が運営する無料のフランス語講座も開かれている。教科書があるわけではなく、図書館そのものが教材。取材した日に開かれていた講座は、参加者がそれぞれ図書館の各階に行って司書と話し、その階にはどんな本があるかを聞いた後、全員の前でこれを紹介する、という内容だった。留学生にも移民にも、図書館そのものが身近な教材になっている。

(軍司弘子)

図書館各階案内(日本の1階が0階)
図書館各階案内(日本の1階が0階)