歴史上「天皇の母」となった徳川の姫は、たった1人。「徳川の血を引く天皇の誕生」という悲願のために入内した東福門院徳川和子を描いた『華のかけはし 東福門院徳川和子』(梓澤要著、新潮社・東京)の文庫最新刊が発売された。
なじんだ江戸とはかけ離れた京の文化、徳川への恨みを募らせる夫帝、武家を見下す公家衆、ようやく生まれても次々と亡くなる皇子たち。波瀾(はらん)万丈の人生だが、生来の天真らんまんさと芯の強さで、次第に朝廷と幕府、どちらにとっても欠かせない架け橋のような存在になっていく。
今よりもはるかに女性が生きづらかった時代に、自らの道を切りひらいた徳川和子の生き方は魅力的。「空也」「運慶」を描いてきた著者による徳川の姫の大河小説だ。税込み1045円。