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鳥取vs高知、移住のプロがお国自慢対決 知られざる、豊かな「当たり前」発信

土佐の宴会文化「おきゃく」のイベントが行われた電車内で酒を飲み交わす人々
土佐の宴会文化「おきゃく」のイベントが行われた電車内で酒を飲み交わす人々

 

 自分らしく暮らしたい!と願う人の地方移住がムーブメントとなる中、ともに人口が少なく、海と山に面した豊かな自然環境を誇る四国・高知県、山陰・鳥取県の移住相談員が、「お国自慢」対決をした。「犬の散歩中、漁師さんにハマチ1匹おすそ分けいただきました」と高知がアピールすれば、鳥取は「冬にはスーパーで動くカニを生けすからすくって買えますよ」と応酬。知られざる日常生活の魅力的な「当たり前」を発信した。

 両県の移住促進機関が手を取り合い、3月に開催したオンラインの連携移住イベント「どっちの県も素敵でSHOW~鳥取県×高知県~」では、高知県の岡村あおいさん、鳥取県の浜田相談員が登場。高知県移住歴17年のお笑い芸人「あつかんDRAGON」のおだちさんを進行役に、酒、食、あるある、無料、祭り、子育てなどのテーマで対決した。

 海の幸が豊富なことでは共通する両県だけに、「食」バトルは肉薄。松葉ガニが特産の鳥取では例年11月ごろから、生きたカニが売られるお店があるという。「網でビニール袋に入れる際に暴れることもありますが、他のお客さんが助けてくれるから心配ありません」(浜田さん)。パック詰めもあり1パイ1000円台の値札が映し出されると、垂ぜんの視聴者から「食べたい~」のコメントが。

鳥取県内では例年11月頃から、活きたカニが売られる店も
鳥取県内では例年11月ごろから、生きたカニが売られる店も

 写真提供:道の駅「きなんせ岩美」

 

 カツオ王国の高知は、たたきの食し方を紹介。「ふつうの家のたたき」は、都会の飲食店で出される切り身の2~3倍が皿にこんもり。薬味のニンニクはすりおろしではなく必ずスライスにすることが肝要という。切り身の切れ端を利用したご当地料理が「土佐巻」だ。「これを味わったら、もう『高知人』です」(岡村さん)。さらに、ニンニク、たたきの順で口に入れかんだ後、日本酒を流し込む「上級者編」の食べ方も紹介した。

高知県の一般的な家庭で出されたカツオのたたきの例
高知県の一般的な家庭で出されたカツオのたたきの例

 

 両県とも、おいしいさかなが多い土地柄、酒蔵も多い。人口100万人未満にして、それぞれ18もの蔵を擁する「お酒大好き」県だ。高知では同県産酵母「CEL-24」を初めて使用して日本酒ファンに有名となった亀泉酒造を含め、半数を超える蔵がCEL-24醸造酒を商品化しており、飲み比べができる。

 鳥取は、日本酒に加えてクラフトビールの製造が盛んだ。梅、酒かす味などの商品もつくる「BREW LAB KURAYOSHI(倉吉ビール株式会社)」や、移住者がDIYから手がけた「IWAMI BLUE BEER」などが、業界に新風を吹き込んでいるという。いずれもオーナーは移住者だ。

 食の豊かさをさらに後押しするのが、おすそ分け文化。高知の岡村さんは、愛犬との散歩中に出会った漁師とたわいもない話で盛り上がったところ、流れでハマチを1匹まるごといただく経験をした。「コミュニケーション次第で、驚くべきものがいただけることがあります」。人同士の結びつきを大切にする地方ならではの良さだろう。鳥取は、やはり冬季の生きたカニ。お隣さんがビニール袋に入れて季節の農作物と一緒に持ってきてくれることが、特に港町でしばしばあるそうだ。

 さて、対決は続き、豊かさは食ばかりではないと両者。家族連れの移住者にとって重要なポイントになるのが、教育環境だ。鳥取の浜田さんは、山間部などをフィールドに自然教育を行う、いわゆる「森のようちえん」として活動する施設を紹介した。そこでは、森林の中で過ごす教育を通し、自分で考えて行動できる子を育てるのが各園のモットーという。「自分で火おこしできる子どもまでいて、驚きました」(浜田さん)。

 高知では、国際バカロレア教育の導入に積極的な学校が増え、なかでも県立高知国際高校は英語の授業を取り入れ、国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)の取得が可能だ。

 海の幸に暮らしが支えられている両県では、地引き網体験をして、そのまま浜辺で調理という体験学習も多くの学校で根付く。子どもの医療費無料化などの施策に加え、生きる力を備えられる環境が得やすいのは、田舎の良さといえるだろう。学校以外にも子どもと利用できる施設が身近。アスレチック施設が多く、山菜採りが楽しめる高知に対し、鳥取は、砂丘を走り回れ、冬は雪遊びもできる。また、無料で動物と触れあえる施設は、両県に存在する。

鳥取県は雄大な砂丘がすぐそこに。のびのびと遊ぶことができる
鳥取県は雄大な砂丘がすぐそこに。のびのびと遊ぶことができる

 

<メモ>
 高知県の移住者は2022年に1730人(1185組)に達し、単年での過去最高を更新した。同年の鳥取県の移住者は、コロナ前と同水準の2103人(1516世帯)となった。全国都道府県人口ランクでは45位(高知)、47位(鳥取)と最下位レベルにあるが、じりじりと移住先としての人気を獲得し始めているようだ。もっと両県を知りたい人向けには、現住所に居ながら最新の情報を得たり、現地の店や施設で優待を受けたりできるサービスがある。また、移住を決めた人には、高知は最大100万円の移住支援金を支給。鳥取も、支援金や、現地の下見や就職活動に伴う宿泊費、引っ越し費用を助成する施策がある。