大同生命保険(大阪市)は全国の中小企業経営者を対象に、景況感に加えさまざまなテーマを設定したアンケート調査「大同生命サーベイ」を2015年10月から毎月実施している。2024年3月度の主なテーマは「中小企業の賃上げ状況/中小企業のDX推進」など。全国の6737社の中小企業経営者を対象に、3月1日から28日に訪問またはZoom面談で調査を行った。
「2024年に賃上げを実施する予定があるかどうか」については、5844社から回答を得た。「賃上げを実施する」(実施済み・実施予定)と答えた企業は4割。現時点で「実施できていない」(「検討中32%」と「実施予定なし28%」の合計)と回答した企業は約6割だった。
「実施済み・実施予定」と回答した企業(2149社)に、具体的な賃上げ率(給与支給総額に対する率)を聞いた。賃上げ率の平均は「3.3%」で、昨年の「3.2%」とほぼ一緒だった。多い順に「2.0%以上3.0未満」(33%)、「2.0%未満」(24%)、「3.0%以上4.0%未満」(17%)、「4.0%以上5.0%未満」(12%)だった。
今年、「賃上げを実施済・実施予定」の理由は、「従業員のモチベーションアップのため」が68%で最多。以下、「従業員の確保・定着のため」(57%)、「物価高騰を反映するため」(46%)、「最低賃金の上昇に合わせるため」(18%)、「業績が好調であったため」(15%)と続いた。賃上げを実施しない理由は、「将来の売り上げに不安があるため」が35%で最多。以下、「十分に価格転嫁できていないため」(31%)、「物価が高騰しているため」(24%)、「ゼロゼロ融資などの返済負担のため」(6%)、「設備投資を優先するため」(6%)と続いた。
賃上げについて経営者たちからは、「従業員のモチベーションアップは最重要。毎年賃上げしてきたので、今年もできるように何とか頑張りたい」(情報通信業/東北)、「ここ数年賃上げできなかったが、従業員のためにも、そろそろ賃上げをしなくてはと思う」(製造業/北関東)、「定期昇給のみの予定だが、収益性が改善すれば大幅なベースアップを検討する」(卸売業/東海)などの前向きな声も寄せられた。
一方、「賃上げしたいが、原材料高騰などコスト上昇を価格転嫁しきれていないためできない」(製造業/北海道)、「昨今の物価高騰にはさすがに対応しなければと思うが、業績が良いわけではないので会社は苦しい」(卸売業/東北)、「売り上げがコロナ前に戻っていないため、賃上げも政府が目標とする数字の達成は難しい」(製造業/北陸・甲信越)、「業績好調でも、コロナ時の返済があるので経費は抑えないといけないため、賃上げできない」(不動産・物品賃貸業/関西)など、厳しい現状を訴える声も寄せられた。
DX(デジタルトランスフォーメーション)について、「名称を知っている」と回答した企業は約7割。一方で、「内容も知っている」企業は3割程度(34%)だった。「推進を検討中」(17%)、もしくは「推進が必要だが、できていない」(23%)の企業の課題(複数回答)の上位3位は、「ノウハウがない」(35%)、「IT人材不足」(29%)、「予算がない」(24%)だった。
今後推進したいDXの具体的な内容(複数回答)としては、「書類の電子化・ペーパーレス化」(51%)、「ホームページの作成、SNSの活用」(33%)、「クラウドサービスの活用」(23%)など。DX推進に当たって期待する支援策(複数回答)は、「補助金・助成金の拡充」が52%と最多。次いで、「補助金・助成金の周知」が26%だった。
DXについて経営者たちからは、「メリットをよく理解し、体験できる機会などがあるとDX推進がさらに進むと思う」(宿泊・飲食サービス業/北海道)、「DX推進のために勉強する時間や予算がなく取り組めない状況だが、業務効率化ができれば人件費削減などの効果はあると思う」(農林漁業/北陸・甲信越)、「時代の変化に柔軟に対応することで、効率よく業務を進めることができ、売り上げにもつながっていくと思う。今後も必要なものは積極的に導入していきたい」(小売業/九州・沖縄)などの声が寄せられた。
長引く物価高。そして、中小企業の多くは人手不足も抱える。経営者たちは、人手確保や業務効率化、そのための予算確保、従業員のための賃上げなどの課題を前に、難しいかじ取りを求められているようだ。