男性4人組バンド「DISH//」を詳しくご存じない方でも、代表曲「猫」(あいみょんさん作詞作曲)を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
「猫」は2020年、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で北村匠海さんが歌う動画が公開されると、名パフォーマンスが並ぶ同チャンネルの中でも再生回数トップとなり、2億回を超えました。同曲は21年末のNHK紅白歌合戦でも披露しましたし、全プラットフォームでのストリーミング再生回数の合計は、なんと10億回を突破しています。
メンバーはボーカル&ギターの北村さんと、ギター&コーラスの矢部昌暉さん、DJ&キーボードの橘柊生さん、ドラムの泉大智さんです。11年の結成時(17年加入の泉さんを除く)3人は13~16歳。誰も楽器は弾けず、楽器を持っても演奏はしないダンスロックバンドでした。ただ、当時から、スタジオミュージシャンの演奏で録音した楽曲を「いつか自分たちでやります」と宣言していたそうです。
そして有言実行。忙しい中でも演奏スキルを身につけていき、結成10周年を迎えると、それまで発表してきた楽曲をメンバー自身で演奏し、リテイクするプロジェクト「再青(さいせい)」を始めました。
彼らの大きな魅力は一つの型にはまらないところ。4人全員が曲を作るだけでなく、あいみょんさんや「氣志團」、「マカロニえんぴつ」はっとりさん、「緑黄色社会」長屋晴子さんら多彩なアーティストから楽曲提供を受けています。その曲を自分色に染めるというより、提供者のエキスや面影を大切にしていると私は感じます。ですから常に変化し、新しい表情を見せてくれる。スライムのように柔軟なバンドです。
柔軟さは個々の豊かな表現力があってこそでしょう。北村さんは17年の映画「君の膵臓をたべたい」以来数々の映画・ドラマで主演していますし、矢部さんは舞台で主演。泉さんはソロプロジェクトも始めました。橘さんとは直接話す機会があり、自作曲「缶ビール」について伺いました。「二日酔いでもヒールは履ける」といった歌詞で、強さと弱さが共存する乙女心を、韻も踏みつつ、おしゃれで脱力した曲に乗せています。橘さんは「丸の内のOLになりきって書きました」と言うんです。引き出しの多さに驚きます。
彼らの最新曲は「朝、月面も笑っている」。作曲は橘さんと泉さん、作詞が北村さんで、フジテレビ系「めざましテレビ」の新テーマソングです。北村さんの歌は不思議です。聴いていると、私の中に、ないはずの思い出が生まれる感覚があります。
山崎あみ(やまざき・あみ)/1997年生まれ、東京都出身。音楽大卒。interfm「MUSIClock」(略称みゅじろく。月―木曜午前7時~8時50分)メインDJ。YouTube番組「山崎あみ『うるおう』リコメンド」(うるりこ。共同通信社制作)金曜出演中。