日本各地の島を旅するなか、また会いたいと思う人が増えていく。その人たちは、年齢も仕事もさまざま。ある人は高齢のベテラン漁師で、ある人は地域おこし協力隊で島に移住した若者で、ある人は同じく島を旅する者で。
昨年の初夏、私は取材も兼ねて「硫黄島3島クルーズ」ツアーに参加した。小笠原諸島の父島と東京湾岸の竹芝間を運航する小笠原海運が年に一度開催する観光クルーズだ。都心から南へ約1千キロに位置する父島までは、船でしか行くことができず、竹芝から24時間を要する。
このクルーズは、父島に到着後、約315キロ離れた南硫黄島へ向かい、先の大戦で激戦地となった硫黄島で黙祷(もくとう)と献花をし、かつて人が暮らしていた北硫黄島をめぐる。3島とも上陸は禁じられているので、いずれも船上から眺めるのみ。とにかくずっと船にいる。6日間のツアーで確実に半分は洋上だった。となると、「一緒にご飯食べましょう!」と声をかけ合う人たちができる。
この時に出会ったのが、青森から来たという夫婦だ。ご主人は90歳で、奥さんは83歳。初めこそ、小笠原諸島の島々について談義していたが、そのうち2人の昔話や青森の郷土料理の話に花が咲いた。
「お餅(まんじゅう)でも干し柿でも、何でも手作りするのよ」と、奥さんが身振り手振りで話す姿がかわいらしく、つい調子に乗ってあれこれと質問してしまった。最後には、連絡先を交換して別れた。
クルーズの旅から戻ってすぐ、仕事場に宅配便が届いた。箱を開けると、手作りのよもぎ餅と紅白餅がびっしりと詰められ、折り紙で作った飾りと古文書のような達筆の便りが添えられていた。お礼にお菓子を贈ると、今度は干し柿が届き、その次は黒ニンニク(もちろん手作り)とリンゴ、その次は桜餅…と、贈り合いっこが続く。私にとっては、季節を味わえることこの上なく、日常の楽しみとなった。
実は、こうした贈り合いっこは、いくつかの島の人ともゆるりと続いている。相手の顔を浮かべ、今度はこれを贈ろうかと思案し、手紙を書いて配送の手配をする。手間暇はかかるが、愛(いと)おしい時間だと思う。デジタル社会になり、遠くにいようが誰とでも瞬時に連絡が取り合える世の中であるが、人が人と心を通わせるのは、相手には見えない手間暇かけている時間に生まれるのではないかと気づいた。
青森のお父さんとお母さんには、近々会いにいくつもりだ。
【Kyodo Weekly(株式会社共同通信社発行)No.25 からの転載】
小林希(KOBAYASHI Nozomi)/1982年生まれ。出版社を退社し2011年末から世界放浪の旅を始め、14年作家デビュー。香川県の離島「広島」で住民たちと「島プロジェクト」を立ち上げ、古民家を再生しゲストハウスをつくるなど、島の活性化にも取り組む。19年日本旅客船協会の船旅アンバサダー、22年島の宝観光連盟の島旅アンバサダー、本州四国連絡高速道路会社主催のせとうちアンバサダー。新刊「もっと!週末海外」(ワニブックス)など著書多数。