『大きな玉ねぎの下で』(2月7日公開)
夜はバー、昼はカフェとして営業する「Double」という店で、夜と昼に別々に働く丈流(神尾楓珠)と美優(桜田ひより)。2人は業務連絡用のノートでつながり、次第にそこに趣味や悩みもつづるようになり、互いに引かれ合っていく。
丈流と美優は互いの素性を知らないまま、大きな玉ねぎ(日本武道館)の下で初めて会う約束をする。一方、あるラジオ番組では、文通を通じて好きになった相手と日本武道館で初めて会う約束をしたという30年前のエピソードが語られる。令和と平成の2つの恋が交錯し、やがて奇跡が起こる。
「爆風スランプ」が1985年にリリースした同名ヒット曲にインスパイアされ、手紙やノートでの交流を通して顔も知らない相手に恋をする人々の姿を描いたラブストーリー。ストーリー原案は小説家の中村航。高橋泉が脚本化し、草野翔吾が監督をした。
2人の恋を見守るキーパーソン役で江口洋介、飯島直子、西田尚美、原田泰造、平成初期の恋模様の登場人物役で伊東蒼、藤原大祐、窪塚愛流、瀧七海が共演。シンガーソングライターのasmiが主題歌「大きな玉ねぎの下で」をカバーした。
そのタイトル曲は、ライブの日に武道館で会うことを約束したペンフレンドの女の子が当日現れなかったという歌詞の失恋ソング。「大きな玉ねぎ」とは、日本武道館の屋根の上に乗っている擬宝珠のことで、それが「大きな玉ねぎ」に見えるところからこのタイトルが付けられた。
そんな何とも切ない曲を基にしているとはいえ、SNSでやり取りをしている今の若者同士をどうやって“ペンフレンド”にするのかと思いきや、業務連絡用のノートを使うという荒業に出た。なるほどその手があったか。
ところで、かつてインターネットで知り合った名前も知らない男女がメールのやり取りをしながら互いにひかれあっていく様子を描いた、ノーラ・エフロン監督の『ユー・ガット・メール』(98)というロマンティックコメディーがあったが、実は同作はエルンスト・ルビッチ監督の『桃色の店』(40)のリメーク作品。「手紙で文通」の設定が、時を経て「インターネットでメール」に置き換えられたのだ。
その点、本作は、一つの映画の中で、平成と令和という二つの時代を描き、手紙とメールという異なる通信手段を並行して見せたところがユニークだ。そこからそれぞれの長所と短所が見えてくる面白さがある。
昭和・平成世代には懐かしさを、令和世代には新鮮さを感じさせるこの映画は、草野監督が『アイミタガイ』(24)に続いて、人と人とのつながりがさまざまな縁によって点から線になる話を描いているともいえるだろう。